早乙女くんが行方不明になったと聞いた日から三日後。わたしは、小雪ちゃんの家に向かっていた。
きっとこの世界にパラレルワールドから来た早乙女くんがいるに違いない。早乙女くんを探す作戦会議をするところだった。
「愛音先輩! こんにちは」
「小雪ちゃん、今日はお邪魔します」
「いえいえ、ゆっくりして行ってください。どうぞ」
わたしは小雪ちゃんにお出迎えされ、家に案内された。
パラレルワールドの装置があるからなのか、早乙女くんの家と同じくらい広くて大きい。
「先輩、お茶かオレンジジュース、どちらがいいですか?」
「えっと、じゃあお茶で」
「ふふ、いいんですか? 気遣わないで大丈夫ですよ」
「ううん、わたし、お茶が好きだから」
「……同じです」
わたしたちは一斉に噴き出した。
なんか良いなぁ、こういう関係。梨央がいなくなってからずっとひとりぼっちだったけど、それから初めて友達と呼べる人ができた気がする。
「じゃあ早速本題に入りましょうか。パラレルワールドから来た早乙女先輩……分かりにくいので、悠先輩って呼びますね。悠先輩は今どこにいるのか、見当ついてますか?」
「ううん、早乙女くん……悠くんとは、全然親しくなかったんだ。ただわたしがこの世界に帰れなかったとき、力になってくれたの。早乙女くんと同じくらい優しいってことくらいしか分からないな」
「性格が似てるなら、やっぱり早乙女先輩が考えそうなことを思いつけば悠先輩の居場所も分かる気がしますね」
確かに、そうかもしれない。きっと悠くんは、早乙女くんに言われた場所にいるのだろうから。
もっと向こうの世界で、悠くんと話していれば、ヒントが分かっていたのかな。
そう少しだけ後悔した。
「あとは、そうですね……愛音先輩、今までの早乙女先輩の行動とか言動を思い出してみてください。何か、何か引っかかることはありませんか? 何でもいいんです」
「分かった、ちょっと思い出してみる」
わたしは目を瞑って、頭の中をフル回転させた。
人の心を読めるということ。
親がパラレルワールドの研究者だということ。
坂井先輩にある気持ちを伝えたいということ。
ひとつひとつ順序を辿っていくと。ひとつだけ、気になる部分があった。
「ねぇ、小雪ちゃん。パラレルワールドの装置って……“青いボタン”じゃなくて、“赤いボタン”もある?」
「えっ、あぁ、確かにありますね。でも、わたしは青いボタンしか押したことがないですけど。それが、何か……?」
「わたしが初めてパラレルワールドに行くとき、早乙女くんが言ったの。俺が合図したら、中にある赤いボタンじゃなくて“青いボタン”を押して、って」
「えっ、早乙女先輩、どうしてわざわざ赤いボタンのことを……」
小雪ちゃんはわたしと同じ疑問を抱えているようだった。
青いボタンを押して、とだけ言えば良いのに、早乙女くんはわざわざ“赤いボタンじゃなくて”と言った。
それはもしかしたら、赤いボタンに何かがあるのではないかと思った。
「わたし、両親に赤いボタンのこと聞いてみます」
そう言って、小雪ちゃんはパタパタとご両親のところに行った。
数分経って、駆け足で部屋に戻ってきた。
「聞いてきましたっ」
「どうだった?」
「わたしの親は、早乙女先輩の親と一緒にパラレルワールドの装置を作ったらしいんですけど、赤いボタンは先輩のご両親が細かくやっていたみたいで……知らないそうです」
「そう、なんだ」
「すみません、お役に立てなくて」
小雪ちゃんは、しょんぼりとしてしまった。
わたしは首を横に振る。
「全然。聞いてくれてありがとう。小雪ちゃんのご両親が知らないなら仕方ないよ」
「先輩……ありがとうございます。でも、これで振り出しに戻っちゃいましたね。どうしましょう」
「……そうだね。わたしは、思いきって行動するしかないのかなって思う」
「行動?」
わたしが、早乙女くんに梨央のことを嫉妬していると相談したとき。
『行動次第でそれは変えられると思うよ』
そう、早乙女くんは言ってくれた。その言葉に、わたしは頑張ろうと思えた。
あのときの言葉を信じているから。
「赤いボタン、押してみない?」
「えっ……! で、でも、何が起きるか、分からないですよ」
「うん、不安はあるよ。でも、早乙女くんを見つけたいっていう気持ちのほうが強いから。もちろん、小雪ちゃんにこれ以上頼ってばかりいられないから、わたしひとりでやってみるよ。装置の中にもひとりしか入らないしね」
震えそうになる拳をぎゅっと握りしめる。
本当は少し、強がっている。きっと早乙女くんなら見抜いちゃうんだろうな。
そう思っていると、小雪ちゃんはふるふると首を横に振った。
「わたしも、途中まで着いて行きます」
「え……いいの? 小雪ちゃんまで巻き込んじゃう可能性も、もしかしたらあるんだよ」
「大丈夫です。わたし、先輩の役に立ちたいですから。早乙女先輩を救おうと言い出したのもわたしですし」
「小雪ちゃん……」
本当に、小雪ちゃんは優しい子だ。わたしにはもったいないくらいの後輩。
「ありがとう、本当に」
「いえ、全然です。それにしても……愛音先輩は本当に、早乙女先輩のことが好きなんですね」
「えっ、そ、そうかな」
「だって、身を挺してまで助けたいんでしょ? それはもう、世界で一番、大切な人ってことじゃないですか」
世界で一番、大切な人……。
確かに、わたしは早乙女くんのことを一番大切だと思っているのかもしれない。
わたしの人生に、希望をくれた人だから。
「……そうかもしれないね。わたし、早乙女くんのこと、自分が思ってる以上に好きなのかも」
「ふふ、今頃気づいたんですか?」
「うん、ほんと遅いよね。わたし、いつも大事なことって過ぎてから気づくことが多いかも。梨央がいなくなったときもそう」
「そっか、梨央先輩も坂井先輩も、事故で亡くなってるんでしたよね……寂しいですね」
わたしは頷いた。
だから、もう二度とこんな過ちは犯したくない。
梨央がいなくなったときみたいに、こんな別れ方で早乙女くんとお別れなんて絶対に嫌。
心から、そう思った。
きっとこの世界にパラレルワールドから来た早乙女くんがいるに違いない。早乙女くんを探す作戦会議をするところだった。
「愛音先輩! こんにちは」
「小雪ちゃん、今日はお邪魔します」
「いえいえ、ゆっくりして行ってください。どうぞ」
わたしは小雪ちゃんにお出迎えされ、家に案内された。
パラレルワールドの装置があるからなのか、早乙女くんの家と同じくらい広くて大きい。
「先輩、お茶かオレンジジュース、どちらがいいですか?」
「えっと、じゃあお茶で」
「ふふ、いいんですか? 気遣わないで大丈夫ですよ」
「ううん、わたし、お茶が好きだから」
「……同じです」
わたしたちは一斉に噴き出した。
なんか良いなぁ、こういう関係。梨央がいなくなってからずっとひとりぼっちだったけど、それから初めて友達と呼べる人ができた気がする。
「じゃあ早速本題に入りましょうか。パラレルワールドから来た早乙女先輩……分かりにくいので、悠先輩って呼びますね。悠先輩は今どこにいるのか、見当ついてますか?」
「ううん、早乙女くん……悠くんとは、全然親しくなかったんだ。ただわたしがこの世界に帰れなかったとき、力になってくれたの。早乙女くんと同じくらい優しいってことくらいしか分からないな」
「性格が似てるなら、やっぱり早乙女先輩が考えそうなことを思いつけば悠先輩の居場所も分かる気がしますね」
確かに、そうかもしれない。きっと悠くんは、早乙女くんに言われた場所にいるのだろうから。
もっと向こうの世界で、悠くんと話していれば、ヒントが分かっていたのかな。
そう少しだけ後悔した。
「あとは、そうですね……愛音先輩、今までの早乙女先輩の行動とか言動を思い出してみてください。何か、何か引っかかることはありませんか? 何でもいいんです」
「分かった、ちょっと思い出してみる」
わたしは目を瞑って、頭の中をフル回転させた。
人の心を読めるということ。
親がパラレルワールドの研究者だということ。
坂井先輩にある気持ちを伝えたいということ。
ひとつひとつ順序を辿っていくと。ひとつだけ、気になる部分があった。
「ねぇ、小雪ちゃん。パラレルワールドの装置って……“青いボタン”じゃなくて、“赤いボタン”もある?」
「えっ、あぁ、確かにありますね。でも、わたしは青いボタンしか押したことがないですけど。それが、何か……?」
「わたしが初めてパラレルワールドに行くとき、早乙女くんが言ったの。俺が合図したら、中にある赤いボタンじゃなくて“青いボタン”を押して、って」
「えっ、早乙女先輩、どうしてわざわざ赤いボタンのことを……」
小雪ちゃんはわたしと同じ疑問を抱えているようだった。
青いボタンを押して、とだけ言えば良いのに、早乙女くんはわざわざ“赤いボタンじゃなくて”と言った。
それはもしかしたら、赤いボタンに何かがあるのではないかと思った。
「わたし、両親に赤いボタンのこと聞いてみます」
そう言って、小雪ちゃんはパタパタとご両親のところに行った。
数分経って、駆け足で部屋に戻ってきた。
「聞いてきましたっ」
「どうだった?」
「わたしの親は、早乙女先輩の親と一緒にパラレルワールドの装置を作ったらしいんですけど、赤いボタンは先輩のご両親が細かくやっていたみたいで……知らないそうです」
「そう、なんだ」
「すみません、お役に立てなくて」
小雪ちゃんは、しょんぼりとしてしまった。
わたしは首を横に振る。
「全然。聞いてくれてありがとう。小雪ちゃんのご両親が知らないなら仕方ないよ」
「先輩……ありがとうございます。でも、これで振り出しに戻っちゃいましたね。どうしましょう」
「……そうだね。わたしは、思いきって行動するしかないのかなって思う」
「行動?」
わたしが、早乙女くんに梨央のことを嫉妬していると相談したとき。
『行動次第でそれは変えられると思うよ』
そう、早乙女くんは言ってくれた。その言葉に、わたしは頑張ろうと思えた。
あのときの言葉を信じているから。
「赤いボタン、押してみない?」
「えっ……! で、でも、何が起きるか、分からないですよ」
「うん、不安はあるよ。でも、早乙女くんを見つけたいっていう気持ちのほうが強いから。もちろん、小雪ちゃんにこれ以上頼ってばかりいられないから、わたしひとりでやってみるよ。装置の中にもひとりしか入らないしね」
震えそうになる拳をぎゅっと握りしめる。
本当は少し、強がっている。きっと早乙女くんなら見抜いちゃうんだろうな。
そう思っていると、小雪ちゃんはふるふると首を横に振った。
「わたしも、途中まで着いて行きます」
「え……いいの? 小雪ちゃんまで巻き込んじゃう可能性も、もしかしたらあるんだよ」
「大丈夫です。わたし、先輩の役に立ちたいですから。早乙女先輩を救おうと言い出したのもわたしですし」
「小雪ちゃん……」
本当に、小雪ちゃんは優しい子だ。わたしにはもったいないくらいの後輩。
「ありがとう、本当に」
「いえ、全然です。それにしても……愛音先輩は本当に、早乙女先輩のことが好きなんですね」
「えっ、そ、そうかな」
「だって、身を挺してまで助けたいんでしょ? それはもう、世界で一番、大切な人ってことじゃないですか」
世界で一番、大切な人……。
確かに、わたしは早乙女くんのことを一番大切だと思っているのかもしれない。
わたしの人生に、希望をくれた人だから。
「……そうかもしれないね。わたし、早乙女くんのこと、自分が思ってる以上に好きなのかも」
「ふふ、今頃気づいたんですか?」
「うん、ほんと遅いよね。わたし、いつも大事なことって過ぎてから気づくことが多いかも。梨央がいなくなったときもそう」
「そっか、梨央先輩も坂井先輩も、事故で亡くなってるんでしたよね……寂しいですね」
わたしは頷いた。
だから、もう二度とこんな過ちは犯したくない。
梨央がいなくなったときみたいに、こんな別れ方で早乙女くんとお別れなんて絶対に嫌。
心から、そう思った。



