わたしはゆっくり目を開けた。
すると、わたしがいたのは何故かイラスト部の部室で、目の前には梨央が座っていた。
……あれ、何かおかしい。
「愛音、もしかしてパラレルワールドから帰ってきた? ……あっ、言っちゃいけなかったかな。ご、ごめん、気にしないで」
「え……っと」
「そ、そうだ! 愛音に聞きたいことがあってさ。もしかして愛音って、早乙女くんのことが好きだったりしない?」
やっぱり。
目の前にいる梨央は、パラレルワールドの梨央だ。
どうしてーーどうして、わたしはまだこの世界にいるの?
もとの世界に帰りたいって願ったはずなのに。
「あ、あの、梨央。ごめん……わたし、パラレルワールドの愛音なの」
「え、え、え? 嘘、まだもとの世界に帰れてないってこと?」
「うん……この世界の愛音だって勘違いさせちゃってごめん」
「それはいいけど、でも何で? もしかしてやっぱりまだ帰りたくないとか?」
わたしは首をふるふると横に振る。
だってちゃんと思ったはずだ。“もとの世界に帰りたい”と。
「じゃあ、どうして」
「分からない……。ごめんね、梨央は、あなたはわたしじゃなくてこの世界の愛音に会いたいはずなのに」
「確かに会いたいと思ってるけど、あなたが謝ることじゃないでしょ? 今はちゃんともとの世界に帰れる方法を探さないと! ね?」
「梨央……うん、ありがとう」
まず、わたしは梨央に、早乙女くんから聞いたもとの世界に帰れる方法を伝えた。
だけど、もとの世界に帰ることができなかった。その原因を突き止めなければ、永遠に帰ることはできないかもしれない。
「うーん、早乙女、かぁ」
「早乙女くんがどうかしたの?」
「いや……パラレルワールドってこの世界でも実在しているわけでしょ? 実際、愛音がパラレルワールドに来てることなんだし。ということは、早乙女の両親がパラレルワールドのことを研究しているっていうのも同じなのかなと思ってさ」
梨央の考えに、わたしは共感した。
確かにそうだ。もし“違う選択”をしていなければ、この世界でも早乙女くんのご両親はパラレルワールドの研究をしているはず。
「もしそうなら、直接早乙女に確かめちゃったほうが早いんじゃない? 愛音」
「え……でも、この世界ではわたしと早乙女くんあまり仲良くないみたいだし、信じてもらえるのかなぁ」
「まぁ、疑われるとは思うけど、それしか方法はなくない? わたしたちでずっと話し合ってても解決しないと思うよ」
「そう、だね」
梨央の言う通り、わたしたちは早乙女くんの家へ向かった。
もとの世界と同じ場所に早乙女くんの家はあった。
緊張しながらも、ピンポーンとインターホンを鳴らした。
すると中から優しい女の人の声がした。
「はーい。って、どなた?」
「こんにちは。佐藤梨央といいます。こちらは水川愛音です。わたしたち、悠くんのクラスメイトで、先生に頼まれた物があって持ってきました」
さすが梨央だ、と感心してしまう。
丁寧に会話していて、家に来た理由付けも完璧だ。
「あら、梨央ちゃん、愛音ちゃん、わざわざ悠に会いに来てくれてありがとう。今部屋にいるから、どうぞ上がって」
「ありがとうございます。お邪魔します」
「お、お邪魔します」
わたしたちは早乙女くんのお母さんに案内され、早乙女くんの部屋を訪れた。
「悠ー、お友達が来てくれたよ」
「友達? ……って、佐藤さんと水川さん? 何で、あんたたちがここに」
「こら、悠、クラスメイトをあんただなんて呼ばないの。ごめんねぇ、ふたりとも。ゆっくりしていってね」
わたしたちが早乙女くんの部屋に足を踏み入れると、早乙女くんのお母さんは笑顔で退室してしまった。
ここからどう話を切り出せばいいんだろう。そう思っていると、梨央がコホンと咳払いした。
「早乙女、急に来てごめん。実はわたしたち相談したいことがあるんだ」
「……帰ってくれない? 俺ら相談し合うような仲じゃなかったと思うんだけど」
「あんたにしか相談できないの。って言っても、わたしじゃなくて、愛音がね」
「水川さんが?」
こくりと頷いた。
今だ、と思い、わたしはパラレルワールドのことを全て打ち明けた。
早乙女くんは目を丸くしながらも、最後までわたしの話を聞いてくれた。
「……急に話しても、信じられないよね、こんなこと」
「いや、信じるよ」
「えっ!?」
わたしと梨央の声が重なった。
「俺の両親がパラレルワールドのこと研究してるとか、装置のこととか、誰にも話してないし。それにこの前水川さん、教室で俺に話しかけてきたでしょ? あんたそんなこと普通しないから、おかしいと思ってたんだ」
「じゃあ……もとの世界に帰れる方法も、早乙女くんは知ってるの?」
「あぁ。どうしてもとの世界に帰れないのかもね」
「早乙女、教えて! どうして愛音はもとの世界に帰れないの!?」
梨央が興奮気味に早乙女くんに問う。
早乙女くんは、落ち着いて話し始めた。
「まずややこしいから、あんたのことを水川さんじゃなくて“愛音さん”って呼ぶ。いい?」
「う、うん。大丈夫」
名前を呼ばれて、少し胸が高鳴ってしまう。
今はそんな場合じゃないのに!
「たぶんだけど、入れ替わりで水川さんは愛音さんのいた世界へ行った。そして過ごしていくうちに気持ちが芽生えてしまったんだよ。この世界にいたい、帰りたくないって」
「え……」
「だから、必然的に愛音さんはもとの世界に帰れなくなってしまった。もしも帰れたら、同じ世界に水川愛音さんがふたりになるからね。それは何があっても絶対になってはいけないことなんだ」
「……じゃあ、どうすればいいの?」
恐る恐る、わたしは早乙女くんに聞いた。
「俺にも分からないけど……もしそうなら、水川さんがもとの帰りたいって願うしか方法はないと思う」
「じゃあ、もしこの世界の愛音が、そう願わなかったら」
「一生愛音さんはこの世界から出られないね。そういう仕組みなんだ」
「……そん、な」
わたしは力が抜けて、その場に座り込んだ。
もしかしたらこのまま、この世界にいることになるかもしれないなんて。
梨央だって、この世界のわたしに会いたがっているのに。あんまりだ。
どうしてこの世界のわたしは、向こうの世界にいたいって思ったんだろう?
「元気出して。まだ分からないんだし」
「うん……ごめんね、梨央。わたしがこの世界に来たせいで、一緒この世界のわたしに会えないかもしれないなんてことになって」
「ううん、あなたが謝ることじゃないよ。仕方ない。だけど、愛音はこの世界に不満があったのかな。気づいてあげられなかったわたしが情けないよ」
梨央はそう言って悔しそうに唇を噛み締めた。
「きっと言えなかったんだよ。梨央はわたしにとって、一番の幼馴染で、親友だったから。心配掛けたくなかったんだと思う」
「……そっか。うん、そうだね。愛音ってそういう子だよね」
「そうだよ、わたしが言うんだから間違いないよ」
「あははっ、何だかやっぱり不思議な感じ」
ふたりで笑い合っていると、突然早乙女くんがパンパンと手を叩いた。
「友達ごっこもいいけど、まずは水川さんがもとの世界に帰る方法を考えるのが先じゃない?」
「あ、そうだよね。ちゃんと考えないと」
「まぁ、でもこれはパラレルワールドの装置を教えてしまったその世界の俺の責任でもあるから。俺もちゃんと考えるよ」
「いいの? 早乙女くん……あなたが、悪いわけじゃないのに」
「別にいいよ。困ってるんでしょ」
トクン、トクンと心臓が動いているのが分かる。
こういう優しさが、わたしの胸にささったのかもしれない。
「うん、ありがとう!」
早くもとの世界に戻れますように。
そして、早乙女くんに会いたいと心から思った。
すると、わたしがいたのは何故かイラスト部の部室で、目の前には梨央が座っていた。
……あれ、何かおかしい。
「愛音、もしかしてパラレルワールドから帰ってきた? ……あっ、言っちゃいけなかったかな。ご、ごめん、気にしないで」
「え……っと」
「そ、そうだ! 愛音に聞きたいことがあってさ。もしかして愛音って、早乙女くんのことが好きだったりしない?」
やっぱり。
目の前にいる梨央は、パラレルワールドの梨央だ。
どうしてーーどうして、わたしはまだこの世界にいるの?
もとの世界に帰りたいって願ったはずなのに。
「あ、あの、梨央。ごめん……わたし、パラレルワールドの愛音なの」
「え、え、え? 嘘、まだもとの世界に帰れてないってこと?」
「うん……この世界の愛音だって勘違いさせちゃってごめん」
「それはいいけど、でも何で? もしかしてやっぱりまだ帰りたくないとか?」
わたしは首をふるふると横に振る。
だってちゃんと思ったはずだ。“もとの世界に帰りたい”と。
「じゃあ、どうして」
「分からない……。ごめんね、梨央は、あなたはわたしじゃなくてこの世界の愛音に会いたいはずなのに」
「確かに会いたいと思ってるけど、あなたが謝ることじゃないでしょ? 今はちゃんともとの世界に帰れる方法を探さないと! ね?」
「梨央……うん、ありがとう」
まず、わたしは梨央に、早乙女くんから聞いたもとの世界に帰れる方法を伝えた。
だけど、もとの世界に帰ることができなかった。その原因を突き止めなければ、永遠に帰ることはできないかもしれない。
「うーん、早乙女、かぁ」
「早乙女くんがどうかしたの?」
「いや……パラレルワールドってこの世界でも実在しているわけでしょ? 実際、愛音がパラレルワールドに来てることなんだし。ということは、早乙女の両親がパラレルワールドのことを研究しているっていうのも同じなのかなと思ってさ」
梨央の考えに、わたしは共感した。
確かにそうだ。もし“違う選択”をしていなければ、この世界でも早乙女くんのご両親はパラレルワールドの研究をしているはず。
「もしそうなら、直接早乙女に確かめちゃったほうが早いんじゃない? 愛音」
「え……でも、この世界ではわたしと早乙女くんあまり仲良くないみたいだし、信じてもらえるのかなぁ」
「まぁ、疑われるとは思うけど、それしか方法はなくない? わたしたちでずっと話し合ってても解決しないと思うよ」
「そう、だね」
梨央の言う通り、わたしたちは早乙女くんの家へ向かった。
もとの世界と同じ場所に早乙女くんの家はあった。
緊張しながらも、ピンポーンとインターホンを鳴らした。
すると中から優しい女の人の声がした。
「はーい。って、どなた?」
「こんにちは。佐藤梨央といいます。こちらは水川愛音です。わたしたち、悠くんのクラスメイトで、先生に頼まれた物があって持ってきました」
さすが梨央だ、と感心してしまう。
丁寧に会話していて、家に来た理由付けも完璧だ。
「あら、梨央ちゃん、愛音ちゃん、わざわざ悠に会いに来てくれてありがとう。今部屋にいるから、どうぞ上がって」
「ありがとうございます。お邪魔します」
「お、お邪魔します」
わたしたちは早乙女くんのお母さんに案内され、早乙女くんの部屋を訪れた。
「悠ー、お友達が来てくれたよ」
「友達? ……って、佐藤さんと水川さん? 何で、あんたたちがここに」
「こら、悠、クラスメイトをあんただなんて呼ばないの。ごめんねぇ、ふたりとも。ゆっくりしていってね」
わたしたちが早乙女くんの部屋に足を踏み入れると、早乙女くんのお母さんは笑顔で退室してしまった。
ここからどう話を切り出せばいいんだろう。そう思っていると、梨央がコホンと咳払いした。
「早乙女、急に来てごめん。実はわたしたち相談したいことがあるんだ」
「……帰ってくれない? 俺ら相談し合うような仲じゃなかったと思うんだけど」
「あんたにしか相談できないの。って言っても、わたしじゃなくて、愛音がね」
「水川さんが?」
こくりと頷いた。
今だ、と思い、わたしはパラレルワールドのことを全て打ち明けた。
早乙女くんは目を丸くしながらも、最後までわたしの話を聞いてくれた。
「……急に話しても、信じられないよね、こんなこと」
「いや、信じるよ」
「えっ!?」
わたしと梨央の声が重なった。
「俺の両親がパラレルワールドのこと研究してるとか、装置のこととか、誰にも話してないし。それにこの前水川さん、教室で俺に話しかけてきたでしょ? あんたそんなこと普通しないから、おかしいと思ってたんだ」
「じゃあ……もとの世界に帰れる方法も、早乙女くんは知ってるの?」
「あぁ。どうしてもとの世界に帰れないのかもね」
「早乙女、教えて! どうして愛音はもとの世界に帰れないの!?」
梨央が興奮気味に早乙女くんに問う。
早乙女くんは、落ち着いて話し始めた。
「まずややこしいから、あんたのことを水川さんじゃなくて“愛音さん”って呼ぶ。いい?」
「う、うん。大丈夫」
名前を呼ばれて、少し胸が高鳴ってしまう。
今はそんな場合じゃないのに!
「たぶんだけど、入れ替わりで水川さんは愛音さんのいた世界へ行った。そして過ごしていくうちに気持ちが芽生えてしまったんだよ。この世界にいたい、帰りたくないって」
「え……」
「だから、必然的に愛音さんはもとの世界に帰れなくなってしまった。もしも帰れたら、同じ世界に水川愛音さんがふたりになるからね。それは何があっても絶対になってはいけないことなんだ」
「……じゃあ、どうすればいいの?」
恐る恐る、わたしは早乙女くんに聞いた。
「俺にも分からないけど……もしそうなら、水川さんがもとの帰りたいって願うしか方法はないと思う」
「じゃあ、もしこの世界の愛音が、そう願わなかったら」
「一生愛音さんはこの世界から出られないね。そういう仕組みなんだ」
「……そん、な」
わたしは力が抜けて、その場に座り込んだ。
もしかしたらこのまま、この世界にいることになるかもしれないなんて。
梨央だって、この世界のわたしに会いたがっているのに。あんまりだ。
どうしてこの世界のわたしは、向こうの世界にいたいって思ったんだろう?
「元気出して。まだ分からないんだし」
「うん……ごめんね、梨央。わたしがこの世界に来たせいで、一緒この世界のわたしに会えないかもしれないなんてことになって」
「ううん、あなたが謝ることじゃないよ。仕方ない。だけど、愛音はこの世界に不満があったのかな。気づいてあげられなかったわたしが情けないよ」
梨央はそう言って悔しそうに唇を噛み締めた。
「きっと言えなかったんだよ。梨央はわたしにとって、一番の幼馴染で、親友だったから。心配掛けたくなかったんだと思う」
「……そっか。うん、そうだね。愛音ってそういう子だよね」
「そうだよ、わたしが言うんだから間違いないよ」
「あははっ、何だかやっぱり不思議な感じ」
ふたりで笑い合っていると、突然早乙女くんがパンパンと手を叩いた。
「友達ごっこもいいけど、まずは水川さんがもとの世界に帰る方法を考えるのが先じゃない?」
「あ、そうだよね。ちゃんと考えないと」
「まぁ、でもこれはパラレルワールドの装置を教えてしまったその世界の俺の責任でもあるから。俺もちゃんと考えるよ」
「いいの? 早乙女くん……あなたが、悪いわけじゃないのに」
「別にいいよ。困ってるんでしょ」
トクン、トクンと心臓が動いているのが分かる。
こういう優しさが、わたしの胸にささったのかもしれない。
「うん、ありがとう!」
早くもとの世界に戻れますように。
そして、早乙女くんに会いたいと心から思った。



