「やっぱり……愛音は、あなたは、パラレルワールドから来たんだね」
「……え」
予想もしない返事が来て、驚きを隠せなかった。
梨央は優しく微笑んだ。どうしてわたしのことを知っているんだろう。
「ちょっとこの前から変だなって思ってたんだ。愛音、いつもわたしの背中に隠れてるのに、すごく堂々としてたから。あれ、いつもの愛音と違うなって。ふふ、やっぱりそうだったんだ」
「驚か、ないの? パラレルワールドが、存在していた、こと」
「めっちゃ驚いてるよ。信じられないもん。でも愛音さっきわたしが亡くなってるって言ったでしょ? それ、本当なの?」
認めたくなかったけれど、わたしは静かに頷いた。
「そうなんだ。つらかったね。愛音」
「……っ、うん、つらかった」
「もしかして、それでこの世界に来たの? わたしに……会いに?」
「そうだよ、梨央に会いに来たの。会いたかったの、ずっと」
涙が一粒頬にこぼれおちる。
わたしが泣いたときは、梨央はいつも抱きしめてくれた。だけど今は、優しく頭をぽんぽんとしてくれた。
その優しさに涙が止まらなくなる。
「そんな泣かないで。……って言っても、どうしようもないよね。わたしが愛音だったら同じことすると思うし」
「梨央も?」
「うん、するよ。だって愛音は大切な幼馴染で、親友だから。そんな存在がいなくなったら、絶対に同じことしちゃうもん」
梨央は、えへへ、と歯を見せて笑った。
「さっきは無神経なこと言っちゃってごめんね。愛音はそんなつらいことがあったのにさ、軽々しくパラレルワールドに行ってみたいとか言って」
「わたしのほうこそ。強く言い過ぎちゃってごめんね」
「わたしたちってさ、子供の頃から喧嘩しても絶対にすぐ仲直りするよね。あ、愛音のいた世界では違うのかな?」
「……ううん。同じだよ。わたしと梨央も喧嘩することはあったけど、お互いすぐ謝って仲直りしてた。この世界でもわたしたちは同じだったんだね」
「あはは、そうだね」
何だか不思議な感じだ。
この世界の梨央と、こんなふうに話せることができるなんて。
「わたし、やっぱりこの世界が一番幸せだと思うの。パラレルワールドからもとの世界に帰るには、少しでも帰りたいって思うことなんだって。でもわたしはずっとこの世界に居たいと思ってる」
「そうなんだ。パラレルワールドって本当に不思議なことだらけだね。愛音がそう思うならそうしていいと思うけど……」
「けど?」
聞き返すと、梨央は俯いた。
「今から言うことは、愛音をーーあなたを傷つけてしまうかもしれない。それでも聞いてくれる?」
「……うん。聞くよ」
「ありがとう」
梨央の話したいことなんて、いくらでも聞くに決まっている。
たとえそれが、わたしが傷つくことでも。
「わたしはね、愛音ーーこの世界の愛音に会いたい。でも、あなたがいたら愛音は戻ってこないよね。それは少しだけ、悲しいんだ。もちろん愛音は愛音だと思ってるよ。だけど、わたしからしたら“本物”の愛音はあの子なの」
「……うん、分かってる」
口では言いつつも、ショックだった。
でも確かに、この世界の梨央からしたら本物の愛音はわたしじゃない。この世界の愛音なのだから。
「それにね、あなたが大好きで、大切な佐藤梨央はーーわたしじゃないでしょ?」
……そうだ。
ずっと前からの幼馴染で、親友で、どんなときも一緒にいた梨央。
それは、この世界の梨央じゃない。わたしの世界の梨央なんだ。
そんな当たり前のことをどうして気づけなかったんだろう。確かにこの世界の梨央も、梨央だ。でも、とても似ているけど違う。
わたしが大好きで大切な梨央は、わたしの世界にいる。
「うん。そうだよね」
「ごめんね。愛音は愛音だし、わたしはわたし。どこの世界にいてもそれは変わらない。だけど、きっとわたしはーーあなたの世界の梨央は、あなたを待ってるよ」
「……どうして、分かるの?」
「だって、梨央だもん。わたしも、あなたの世界の梨央も、佐藤梨央だよ。だから絶対そう。わたしが言うんだから間違いない!」
……あぁ。さすが、梨央だ。
梨央が言うと、絶対そうなんだと思わせてくれる。そんな不思議な力が梨央にはある。
この世界でも、違う世界でも、梨央は変わらない。
だけど、わたしが追いかけていたのは。ずっと会いたいと願っていたのは、もとの世界でいなくなってしまった梨央のこと。
そのことに、気づかせてくれた、
「梨央、ありがとう。わたしは大切なことを見失っていたんだね」
梨央にずっと会いたくて、パラレルワールドというものを知ってすごく嬉しかったけど。
わたしが会いたかった梨央は、別の選択をした梨央ではなかった。
そのことを気づかせてくれたこの世界の梨央に感謝しかない。
「お礼言われることしてないよ。それよりも……あなたはいつからこの世界にいたの?」
「えっと、坂井先輩が部に入ってきたときからもういたよ。実はね、坂井先輩のこと友達に聞いてたから、まさかパラレルワールドで会えるなんて思ってなくてびっくりしちゃった」
「え、そうなの? 友達って誰?」
「クラスメイトの、早乙女悠くんだよ」
素直に教えると、梨央はひらめいたように「あぁ!」と言った。
「転校生の! へぇ、早乙女と仲良かったんだ、凪先輩」
「……うん。この世界では恋人同士みたいだよ。先輩、言ってた」
「えー、そうなの!? 初耳だよー! 後で凪先輩に聞かなきゃっ」
まただ。何故か坂井先輩と早乙女くんのことを考えると、胸がチクリと痛む。
「って、じゃあ、愛音の世界のおふたりは? 恋人ではないの?」
「分からないの。その……坂井先輩、亡くなってるんだ」
「えっ」
「早乙女くんが言うには、幼馴染って言ってた。あと気持ちを伝えられなかったってことも」
「そう、なんだ。だからさっきパラレルワールドで会えるなんて思ってなかったって言ったんだね」
わたしは静かに頷いた。
梨央はまさか坂井先輩も亡くなっているとは思っていなかったようで、とても驚いている様子だった。
「愛音……もしかして、早乙女のことが好きなの?」
「え、す、好き!? そんなわけないじゃんっ」
「えー、そうなの? でも愛音、この世界で坂井先輩と早乙女が付き合ってるって言ってたとき、悲しそうな顔してたよ」
「そ、そんなわけ」
わたしは自分の胸に手を当てる。
……もしかして、このドキドキと胸の痛みは。恋のせい、なの?
まさか、と思う。あんな口が悪くて無愛想な早乙女くんに恋をするなんてありえないよ。
「あなたが早乙女のことを好きなら、この世界の愛音も早乙女が好きなのかな」
「わたしはまだ好きって認めたわけじゃないけど……。どうだろう、この世界のわたしと早乙女くんはあまり仲良くないみたいだし」
「まぁ話してるところ全然見たことないから、そうなんだろうね。もし愛音が帰ったら聞いてみるよ」
「うん」
梨央が右手を差し出してきたので、わたしも右手を出し、手を握った。
「ありがとう、愛音。元気でね」
「わたしこそ、本当にありがとう。最後にーー梨央に会えて良かった。元気で」
「また会おうね。愛音ならきっと大丈夫だよ」
梨央の笑顔を見て、わたしは目を瞑った。そして願う。
ーー……もとの世界に、帰りたい。そして早乙女くんに会えますように。
「……え」
予想もしない返事が来て、驚きを隠せなかった。
梨央は優しく微笑んだ。どうしてわたしのことを知っているんだろう。
「ちょっとこの前から変だなって思ってたんだ。愛音、いつもわたしの背中に隠れてるのに、すごく堂々としてたから。あれ、いつもの愛音と違うなって。ふふ、やっぱりそうだったんだ」
「驚か、ないの? パラレルワールドが、存在していた、こと」
「めっちゃ驚いてるよ。信じられないもん。でも愛音さっきわたしが亡くなってるって言ったでしょ? それ、本当なの?」
認めたくなかったけれど、わたしは静かに頷いた。
「そうなんだ。つらかったね。愛音」
「……っ、うん、つらかった」
「もしかして、それでこの世界に来たの? わたしに……会いに?」
「そうだよ、梨央に会いに来たの。会いたかったの、ずっと」
涙が一粒頬にこぼれおちる。
わたしが泣いたときは、梨央はいつも抱きしめてくれた。だけど今は、優しく頭をぽんぽんとしてくれた。
その優しさに涙が止まらなくなる。
「そんな泣かないで。……って言っても、どうしようもないよね。わたしが愛音だったら同じことすると思うし」
「梨央も?」
「うん、するよ。だって愛音は大切な幼馴染で、親友だから。そんな存在がいなくなったら、絶対に同じことしちゃうもん」
梨央は、えへへ、と歯を見せて笑った。
「さっきは無神経なこと言っちゃってごめんね。愛音はそんなつらいことがあったのにさ、軽々しくパラレルワールドに行ってみたいとか言って」
「わたしのほうこそ。強く言い過ぎちゃってごめんね」
「わたしたちってさ、子供の頃から喧嘩しても絶対にすぐ仲直りするよね。あ、愛音のいた世界では違うのかな?」
「……ううん。同じだよ。わたしと梨央も喧嘩することはあったけど、お互いすぐ謝って仲直りしてた。この世界でもわたしたちは同じだったんだね」
「あはは、そうだね」
何だか不思議な感じだ。
この世界の梨央と、こんなふうに話せることができるなんて。
「わたし、やっぱりこの世界が一番幸せだと思うの。パラレルワールドからもとの世界に帰るには、少しでも帰りたいって思うことなんだって。でもわたしはずっとこの世界に居たいと思ってる」
「そうなんだ。パラレルワールドって本当に不思議なことだらけだね。愛音がそう思うならそうしていいと思うけど……」
「けど?」
聞き返すと、梨央は俯いた。
「今から言うことは、愛音をーーあなたを傷つけてしまうかもしれない。それでも聞いてくれる?」
「……うん。聞くよ」
「ありがとう」
梨央の話したいことなんて、いくらでも聞くに決まっている。
たとえそれが、わたしが傷つくことでも。
「わたしはね、愛音ーーこの世界の愛音に会いたい。でも、あなたがいたら愛音は戻ってこないよね。それは少しだけ、悲しいんだ。もちろん愛音は愛音だと思ってるよ。だけど、わたしからしたら“本物”の愛音はあの子なの」
「……うん、分かってる」
口では言いつつも、ショックだった。
でも確かに、この世界の梨央からしたら本物の愛音はわたしじゃない。この世界の愛音なのだから。
「それにね、あなたが大好きで、大切な佐藤梨央はーーわたしじゃないでしょ?」
……そうだ。
ずっと前からの幼馴染で、親友で、どんなときも一緒にいた梨央。
それは、この世界の梨央じゃない。わたしの世界の梨央なんだ。
そんな当たり前のことをどうして気づけなかったんだろう。確かにこの世界の梨央も、梨央だ。でも、とても似ているけど違う。
わたしが大好きで大切な梨央は、わたしの世界にいる。
「うん。そうだよね」
「ごめんね。愛音は愛音だし、わたしはわたし。どこの世界にいてもそれは変わらない。だけど、きっとわたしはーーあなたの世界の梨央は、あなたを待ってるよ」
「……どうして、分かるの?」
「だって、梨央だもん。わたしも、あなたの世界の梨央も、佐藤梨央だよ。だから絶対そう。わたしが言うんだから間違いない!」
……あぁ。さすが、梨央だ。
梨央が言うと、絶対そうなんだと思わせてくれる。そんな不思議な力が梨央にはある。
この世界でも、違う世界でも、梨央は変わらない。
だけど、わたしが追いかけていたのは。ずっと会いたいと願っていたのは、もとの世界でいなくなってしまった梨央のこと。
そのことに、気づかせてくれた、
「梨央、ありがとう。わたしは大切なことを見失っていたんだね」
梨央にずっと会いたくて、パラレルワールドというものを知ってすごく嬉しかったけど。
わたしが会いたかった梨央は、別の選択をした梨央ではなかった。
そのことを気づかせてくれたこの世界の梨央に感謝しかない。
「お礼言われることしてないよ。それよりも……あなたはいつからこの世界にいたの?」
「えっと、坂井先輩が部に入ってきたときからもういたよ。実はね、坂井先輩のこと友達に聞いてたから、まさかパラレルワールドで会えるなんて思ってなくてびっくりしちゃった」
「え、そうなの? 友達って誰?」
「クラスメイトの、早乙女悠くんだよ」
素直に教えると、梨央はひらめいたように「あぁ!」と言った。
「転校生の! へぇ、早乙女と仲良かったんだ、凪先輩」
「……うん。この世界では恋人同士みたいだよ。先輩、言ってた」
「えー、そうなの!? 初耳だよー! 後で凪先輩に聞かなきゃっ」
まただ。何故か坂井先輩と早乙女くんのことを考えると、胸がチクリと痛む。
「って、じゃあ、愛音の世界のおふたりは? 恋人ではないの?」
「分からないの。その……坂井先輩、亡くなってるんだ」
「えっ」
「早乙女くんが言うには、幼馴染って言ってた。あと気持ちを伝えられなかったってことも」
「そう、なんだ。だからさっきパラレルワールドで会えるなんて思ってなかったって言ったんだね」
わたしは静かに頷いた。
梨央はまさか坂井先輩も亡くなっているとは思っていなかったようで、とても驚いている様子だった。
「愛音……もしかして、早乙女のことが好きなの?」
「え、す、好き!? そんなわけないじゃんっ」
「えー、そうなの? でも愛音、この世界で坂井先輩と早乙女が付き合ってるって言ってたとき、悲しそうな顔してたよ」
「そ、そんなわけ」
わたしは自分の胸に手を当てる。
……もしかして、このドキドキと胸の痛みは。恋のせい、なの?
まさか、と思う。あんな口が悪くて無愛想な早乙女くんに恋をするなんてありえないよ。
「あなたが早乙女のことを好きなら、この世界の愛音も早乙女が好きなのかな」
「わたしはまだ好きって認めたわけじゃないけど……。どうだろう、この世界のわたしと早乙女くんはあまり仲良くないみたいだし」
「まぁ話してるところ全然見たことないから、そうなんだろうね。もし愛音が帰ったら聞いてみるよ」
「うん」
梨央が右手を差し出してきたので、わたしも右手を出し、手を握った。
「ありがとう、愛音。元気でね」
「わたしこそ、本当にありがとう。最後にーー梨央に会えて良かった。元気で」
「また会おうね。愛音ならきっと大丈夫だよ」
梨央の笑顔を見て、わたしは目を瞑った。そして願う。
ーー……もとの世界に、帰りたい。そして早乙女くんに会えますように。



