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学校でのナナは、ふつうの子だと思います。
勉強はとくいじゃないけど成せきはそんなに悪くありません。
足は速くないけど球技は好きです。
リコーダーは苦手だけど絵ならほめられたこともあるんですよ。
クラスに友だちだってちゃんといます。
だけど今日は、その友だちのひとりを泣かしてしまいました。
いじわるをしたんじゃないですけどね。
友だちのミミちゃんは、のんびりした子です。
だから授業が終わってもタブレット端末をなかなか片づけませんでした。だって他の子たちがいっせいに返しにいって、棚の前は混んでいましたから。
ナナは先に片づけて戻ってきました。
その時に、ミミちゃんの席の横で男子とぶつかった気がしたのです。
男子――ユウトくんは水筒を持っていました。ナナがぶつかったせいでしょうか、手がすぺって水筒をミミちゃんの机に落とし――それでタブレットがこわれてしまったのです。
ナナはどうしたらいいかわからなくて何も言えなくなってしまいました。タブレットは高価なものだと知っています。
(どうしよう。どうしよう!)
ミミちゃんは泣き出すし、ユウトくんは「わざとやったんじゃないよ!」とふてくされています。
飛んできた先生がみんなの証言を聞いて「保険がおりるから」と言ってくれたけど、ナナはずっとだまっていました。
じぶんのしたことがこわくなって、ミミちゃんに声もかけられません。
けっきょく、水筒を持って歩いたユウトくんは先生にしかられました。そしてタブレットをすぐ片づけていなかったミミちゃんも注意されてしまいます。
でも、ナナは何も言われませんでした。
(……わたしは? わたしも悪かったんじゃないの?)
そう思ったけどナナは名のり出ることができません。しかられるのが、こわくて。
ナナはそのあとも青ざめて口をむすんだまま帰ってきたのでした。
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学校でのことを思い出してナナは口をつぐみました。だって、また悲しくなっちゃったから。
(嫌なことなんて、ずっとわすれていられたらいいのになあ)
ナナがだまってもココちゃんは気にしません。ニコニコ話しかけてくれて、ちょっとホッとしました。
「ほら別れ道。ナナちゃん、帰りはよろしくね」
森の小道はいくつも枝わかれしていました。そのどちらかをえらぶたび、ココちゃんはナナにそうおねがいしてきます。
ナナはがんばっておぼえました。でもだんだんむずかしくなってきます。こまってしまってココちゃんにききました。
「これ、行きの道はどうしてわかるの?」
「わかってるのはハムまるなのよ。おいしいキイチゴのにおいのする方へ行くなら、ハムまるにおまかせだもんね?」
「はむむーん!」
むねをはったハムまるだけど、帰り道はおなかいっぱいでわからなくなっちゃうそうです。ほんとうに食いしんぼうですね。
笑ったら、ナナの心もすこしかるくなった気がしました。

