森の運び屋 花園急便─運んだ荷物は毒リンゴ─

「こんにちは。花園急便です。」

 古い洋館から出てきたのは、依頼を受けた時と同じ高貴な身なりの女性だった。

「それは、届けるようにお願いしたはずですよ?」
「危険物でしたので返却に参りました。」
「危険物?」

 女性の眉毛がピクリと動く。

「毒は危険物です。このようなことはおやめください。」

 すると、女性の雰囲気が一変した。

「ふっ……ははは!マリーが死ななかったのは、お前のせいか。直接手を出さずに済むと思ったのに、余計なことを。」

 ドレスの裾が広がり、髪が縦横無尽に動いている。

「お前は魔女だな?」
「ふんっ。正体を知られたのなら、生かしておくわけにはいかないね。」

 女性の顔はみるみる歪み、黒い煙に包まれた。やがて姿を現した魔女は、天井高くまで伸びて汚泥のようなものが全身から滴り落ちている。

 俺は剣を抜いて構えた。まともに戦っても勝てる相手ではない。

「確かにその姿ではな……」
「なんだと?」

「鏡よ、鏡……」
「お前、何を……?」

 呪文を唱えると、魔女の背後にある鏡がキラキラと輝き始めた。

「世界で一番醜いのは誰だ?」

 魔女は血相を変えて振り返った。そこに映っていたのは、あの日、鏡に映っていた小さな老婆だった。

「うわぁぁぁぁぁ!やめろぉ、やめろぉぉ!映すなぁぁぁ!」

 魔女は狂ったように鏡を割り始めた。天井に届くほど大きかった魔女は、徐々に小さくなっていく。俺はかすれた声で弱々しく鏡を叩く魔女に近づいた。

「それがお前の本当の姿だ。」

 はっとして振り返った魔女の心臓に、剣を突き刺すと、魔女の体は灰となり、やがて煙となって消えてしまった。