俺は自由が好きだった。広い世界を自由に飛び回る──そんな日々が好きだったのに、俺は檻に入れられた。

 けれど、実のところどうして紗里奈の家に来ることになったのかは覚えていない。

 監禁されたことに反抗しても良かったのだが、あの時の俺は、生きる希望を見出すことができなかった。

 声も出せずに横になっていると、紗里奈は心配そうな顔をして俺を見た。そんな顔をするならここから出してくれと思った。

──それが紗里奈との出会いだった。

 檻から出ることはできない。でも紗里奈は事あるごとに俺を気にかけてくれる。

「元気になった?」
「……まぁな。」

 紗里奈の前で初めて声を出した時、紗里奈は目を見開いた。

「声出た……声出るじゃん!」
「……まぁ……うん……そうだな。」

「ねぇ、お腹空いてない?」
「空いてない。」
「喉は?」
「水は飲んだ。」

「わかった!準備するからね!」
「おい、俺の話を聞け!」

 紗里奈に俺の言葉は届かない。だが、紗里奈はわかっているようなふりをする。

 お腹が空いていないと言っても食事を出してくるし、その逆もある。それに、外へ出たいと言っても楽しそうだねなんて言われる始末だ。

 だけど、あの時だけはなぜか通じた。

「ねぇ、名前ってあるの?」
「監禁しておいて、名前を聞くのかよ。」
「一応聞いてみようと思って。」

 紗里奈はじっと俺を見ている。今日だけは紗里奈に伝えられるような気がした。

「翔太郎……」
「ショウタロウ……翔太郎!!」

(通じた……)

 初めて紗里奈に言葉が届いた瞬間だった。無論、それ以外は全く通じなかった。でも妙に心が満たされたことは、今でも覚えている。