弟のように思っていたのに、恋を教えてくれて――。

 ラーメンを食べ終わると、ちょうどイルカショーの時間。後ろの方が良かったけれど空いていなかったので前の方へ。水がかかる可能性がある席らしい。

「どうする? 入口前でレインコート売ってたけど買ってくる?」
「いや、濡れても少しだろうし、大丈夫でない?」
「そうだね」

 イルカショーは始まった。そんなに水が跳ねてくる様子はなくて、濡れないかな?って思いかけていた。だけど豪快に水の中でジャンプした二匹のイルカが着水した時、ざぶんと大きな音がして、水が思い切り飛んできた。

 私たちは目を合わせて声を出して笑う。

「なんか気持ちいいね。夏樹、すごい服濡れてるよ」
「遥もすごいよ」
「わっ、本当だ。まぁ、外暑いし、すぐに乾きそうだから大丈夫かな?」

 一度濡れてしまえば、また水しぶきが来ても恐れることはない。濡れながら優雅に泳いだり元気よくジャンプしたりしているイルカを眺め、終始楽しんだ。

「楽しかったね、イルカ可愛かったな」
「そうだな」
「イルカ、大好きになっちゃった」

 人混みの中を歩いていると売店が目に入る。

「職場の人たちにお土産買おうかな。店、寄っていって良い?」
「いいよ、行こうか」

 売店へ行くとお菓子系の食べ物があるコーナーへ。イルカのイラストが描かれたクッキーに一目惚れをして、迷わずそれを選んだ。お会計を済ますと夏樹を探す。キーホルダーやハンカチなどが置いてある雑貨のコーナーにいた。私は近寄ってみる。

「夏樹も職場の人たちに渡すお土産を買うの?」
「そうだな。でもその前に買ってあげたい人がいてさ……」

 夏樹はキーホルダー付近を眺めている。

「イルカのキーホルダー可愛い!」
「可愛いよね。遥はどっちが好き?」と言いながら夏樹はキーホルダーを順番に指さした。

 ひとつはそれぞれにイルカがいて、ふたつ合わせるとひとつのハートになるプラスチックのキーホルダー。もうひとつは単品のフワフワしているイルカのキーホルダー。

「表情がにこにこしていて可愛いからこっちかな?」と私はふたつ合わせるとハートになる方を指さした。

「分かった。これ買ってくる」

 夏樹は、私のキーホルダーと会社の人たちに渡すお菓子の箱をひとつ持つとレジに向かっていった。私は優しいなと思いながら夏樹の背中を見つめる。

「はい、遥は左側ね。俺のは、どこに付けようかな? 鍵?」
「もしかして、ひとつずつ持つ感じ?」
「そうだよ! お揃い」

 お揃いって、あんまり経験ないけれど良いものだな。可愛いキーホルダーだし、気持ちがほわほわしてくる。どこにつけようかな? 私も家の鍵につけようかな?

――お揃い、夏樹と。しかも合わせるとハートになるやつ。

 鍵につけてみた。鍵にぶらさがるハートの片割れの中にいるイルカ。眺めると自然と笑みが込み上げてきた。

「帰ろっか?」
「そうだね」

 そして満喫したデートの一日が終わった。

***