水族館に着いた。

「入場券、大人二枚お願いします」と、夏樹は受付で言う。
「お金、私出すよ」
「いや、いいよ。俺が誘ったんだし」
「車も出してもらってるのに……お昼ご飯代は私が出すね」

 家族連れやカップル、ひとりで来た人。混み合う空間をくぐり抜けると薄暗くて魚たちがいる場所へ。

「夏樹、迷子にならないでね」
「ならないし……遥もな」
「私はならないよ!」

 私たちは見つめ合い、微笑む。
 深い青の世界。魚をじっくり観察したり説明を読んだりしながら進んでいると夏樹は何もいない場所で立ち止まった。

「遥、手、繋いでいい?」
「……う、うん」

 差し出してきた夏樹の手。こういうの慣れてなくて、どんな風に握ればいいのか分からない。恋人繋ぎは微妙だしな。手の向きもどうしたら良いのか考えたけれど、とりあえず私が一番居心地良い感じで、と夏樹の手を優しく握った。

 夏樹の手は大きくて、あたたかい。夏樹の顔を見上げる。夏樹は今はもう身長が私よりも高くて。夏樹の首辺りに私の頭のてっぺんがある。頼もしくなったな、夏樹。
 
「だから、そんなに見つめないで?」

 繋いでない方の手で夏樹は自分の口元を押さえ私の逆側に顔を向けた。自分の顔を隠してる? でも隠しきれていない顔はとても照れている感じだった。

 ただの幼なじみじゃない反応だな。もしかして私を意識していたりするのかな? ちょっとだけ意識していたら良いのになと考えてしまう。

 相変わらずじれじれした雰囲気な私たち。だけど、すごく久しぶりに来た水族館は楽しくて。あっという間に全ての空間を見終わってしまった。明るい場所に戻ると夏樹はパンフレットを確認した。

「午後からイルカショーがあるって。見ていく?」
「うん、見たい! じゃあそれまで休憩と昼ご飯かな?」
「そうだな」