デート当日の朝。夏樹が車で迎えに来てくれた。

「お茶買ってきたから、よかったら飲んで?」
「ありがとう」

 助手席に座ると小さなペットボトルの緑茶をもらった。ナビは目的地がすでに設定されている。

「私、忘れ物ないよね?」と言いながら私は自分のバッグの中を確認した。

「財布と携帯あれば大丈夫だよ。今日は俺がずっと隣にいるし」
「そうだよね」

 夏樹は照れながら笑った。

 最悪、財布や携帯を忘れても夏樹がいれば安心だな。

「水族館まで一時間ぐらいだよね?」
「そうだな」

 夏樹の車の助手席にいるのが不思議。私が免許取りたての頃、助手席に夏樹を乗せていたことはあったけれど。

 車内は静かで、ナビの音と夏樹の運転する手元だけが動いている。ちらりと夏樹の顔を見ると、横顔が朝の爽やかな光に照らされていた。

――運転姿が大人っぽい。横顔も凛々しいな。

「そんなに見つめないで? なんか、恥ずかしい」
「わっ、ごめん……」

 無言になるふたり。なんだこのじれじれした空気感。相手は夏樹なのに。私、夏樹のこと意識してる? この感じ、整理したら小説に使えそう? でも今はなんか緊張していて、いっぱいいっぱいだな。後で考えよう。今は、夏樹とのデートを大切にしよう。

 私は夏樹がいる方向の逆を向いた。住宅街を抜けると緑が広がる。畑の奥に山も見えてきた。自然の風景を眺めていたけれど、無言が耐えられなくなって「風景が綺麗だね」と呟いた。