お昼ご飯がまだだから、そのまま私は実家の近くにある行きつけのカフェに向かう。六台停められる駐車場の端を選んで車を停めた。白い壁で清潔感のあるカフェの外観。緑色のドアを開けるとカランと音が鳴る。
「いらっしゃいませ」
「遥ちゃん、いらっしゃい」
店内はカウンター席が五席と、テーブル席が五つある。昼食のピーク時間を過ぎていたからカウンターにふたりいるだけで店の中は空いていた。私はテーブル席へ迷わず向かう。
「ミートソースパスタと、いつものアイスコーヒーでお願いします」
「かしこまりました」
ここのカフェは高校時代から通っていて、試験勉強に利用していたりもしていた。オーナーの成瀬さんは私より十歳年上の男の人。見た目も声も落ち着いていて、見ているだけで安らぎをくれるような人だ。
私はいつも隙間時間を見つけてはコンテスト用の小説を書いている。今日も席に着くと少しだけ進めようかなとパソコンを開いた。
「恋愛の心情描写がもっとあればよいと思います、か……。恋愛した方が、いいのかな? いや、リアルでの恋愛は面倒くさいな。別に経験がなくともメディアで恋愛を摂取すれば大丈夫」
小説は学生時代にも少しだけ書いていたけれど、その時はただ妄想を吐き出したいだけだった。再び書くようになって、二年ぐらい経つだろうか。周りには内緒だけどデビューしたいなと考えるようになって、コンテストにも参加するようにもなった。そして最近参加したコンテストでもらったアドバイス。その内容の一部がこれだった。
パソコンの、書きかけの画面を眺めながらぼんやりとシーンを考えている時だった。
「遥」
突然知ってる声が背後の方からして、私は慌てて画面を閉じた。そして振り向く。いつからいたんだろう。それよりも、さっきの契約のことを思い出して、睨んでしまった。
「遥、どうした?」
「どうしたって……夏樹、私の契約奪ったでしょ?」
「私の契約?」
「そう。秋山さんの保険の」
「えっ? 遥も秋山さんのところ回ってたの?」
驚いた表情をしながら訊いてきた。私が秋山さんと契約の話をしていたことを全く知らない様子だ。
「うん、してた。お母さんから秋山さんが医療保険に入りたいらしいって話を聞いて、それでこっちから連絡して、相談受けて……」
「そうだったんだ、全く知らなかった」
「本当に? こっちには言ってたよ。夏樹の会社の商品と迷っているって」
「あぁ、別の会社の方にも相談してるけど、金額が高いとは愚痴っていたな……別の会社って、遥のとこだったんだ?」
愚痴っていたって……もっと安くて秋山さんに合う別の商品の提案もできるから私に直接言ってくれればいいのに!
「秋山さんめっ!」
「いや、俺、遥のとこだって知ってたら譲っていたのに……」
「何? その余裕。ノルマなんて余裕だって感じ?」
「別に余裕なんてねーよ。遥だから譲るってことだよ」
もう一度夏樹を睨みつけると私はぷいっとした。大人気ないのは分かってる。私の提案が夏樹の提案よりも未熟だったことも。分かってるけれど。夏樹の前では子供じみたことをしてしまう。
「いらっしゃいませ」
「遥ちゃん、いらっしゃい」
店内はカウンター席が五席と、テーブル席が五つある。昼食のピーク時間を過ぎていたからカウンターにふたりいるだけで店の中は空いていた。私はテーブル席へ迷わず向かう。
「ミートソースパスタと、いつものアイスコーヒーでお願いします」
「かしこまりました」
ここのカフェは高校時代から通っていて、試験勉強に利用していたりもしていた。オーナーの成瀬さんは私より十歳年上の男の人。見た目も声も落ち着いていて、見ているだけで安らぎをくれるような人だ。
私はいつも隙間時間を見つけてはコンテスト用の小説を書いている。今日も席に着くと少しだけ進めようかなとパソコンを開いた。
「恋愛の心情描写がもっとあればよいと思います、か……。恋愛した方が、いいのかな? いや、リアルでの恋愛は面倒くさいな。別に経験がなくともメディアで恋愛を摂取すれば大丈夫」
小説は学生時代にも少しだけ書いていたけれど、その時はただ妄想を吐き出したいだけだった。再び書くようになって、二年ぐらい経つだろうか。周りには内緒だけどデビューしたいなと考えるようになって、コンテストにも参加するようにもなった。そして最近参加したコンテストでもらったアドバイス。その内容の一部がこれだった。
パソコンの、書きかけの画面を眺めながらぼんやりとシーンを考えている時だった。
「遥」
突然知ってる声が背後の方からして、私は慌てて画面を閉じた。そして振り向く。いつからいたんだろう。それよりも、さっきの契約のことを思い出して、睨んでしまった。
「遥、どうした?」
「どうしたって……夏樹、私の契約奪ったでしょ?」
「私の契約?」
「そう。秋山さんの保険の」
「えっ? 遥も秋山さんのところ回ってたの?」
驚いた表情をしながら訊いてきた。私が秋山さんと契約の話をしていたことを全く知らない様子だ。
「うん、してた。お母さんから秋山さんが医療保険に入りたいらしいって話を聞いて、それでこっちから連絡して、相談受けて……」
「そうだったんだ、全く知らなかった」
「本当に? こっちには言ってたよ。夏樹の会社の商品と迷っているって」
「あぁ、別の会社の方にも相談してるけど、金額が高いとは愚痴っていたな……別の会社って、遥のとこだったんだ?」
愚痴っていたって……もっと安くて秋山さんに合う別の商品の提案もできるから私に直接言ってくれればいいのに!
「秋山さんめっ!」
「いや、俺、遥のとこだって知ってたら譲っていたのに……」
「何? その余裕。ノルマなんて余裕だって感じ?」
「別に余裕なんてねーよ。遥だから譲るってことだよ」
もう一度夏樹を睨みつけると私はぷいっとした。大人気ないのは分かってる。私の提案が夏樹の提案よりも未熟だったことも。分かってるけれど。夏樹の前では子供じみたことをしてしまう。



