コートを羽織り外に出る。寒くて透明だった息が白色に変わる。
少し先に夏樹の背中が見えた。
夏樹の肩には雪が積もり、髪には白い粒が光っている。
「夏樹!」
私は名前を呼んだ。寒くて声が小さめになってしまったけれど、夏樹は気がついてくれた。そしてこっちに早歩きで向かってくる。
「夏樹、恋人になろうよ!」
私は叫んだ。夏樹はその場で立ち止まり、目を潤ませる。昔の、守ってあげたかった夏樹の面影が一瞬よぎる。
ふたりの距離は二メートルぐらい。微妙な距離だったから私の方から近づいた。そして緊張したけれど、勢いに頼って夏樹を抱きしめた。
「夏樹、成長したね」
「今、それ言うタイミング?」
「うん、言うタイミング。だって、無言じゃ耐えられないぐらい恥ずかしいから」
「俺も、カフェで遥に気持ち伝えるの恥ずかしかった」
「分かってる。夏樹がどんな気持ちで言ってくれたのか、分かるよ。だって、小さい時から一緒にいたんだから」
寒い中で抱きしめ合うのは、あたたかくて心地よい。
小説に今の気持ちを丁寧に書けば良いのかな。物語では盛り上がる大切なシーンなのに、リアルではこんなことを考えてしまうのはどうなの?と自分に問いながら、頭の中で丁寧に浮かび上がる言葉を綴っていく。
「はぁ、夢かなこれ」
夏樹の声は少し震えていた。
「現実だよ、多分。夏樹、少しだけしゃがんで?」
「分かった」
言われた通りにした夏樹。夏樹の頭のてっぺんは今、私の胸元辺りにある。私はサラサラな夏樹の髪の毛を混ぜるように撫でながら雪も払い落とす。
「次は俺もさせて?」と、夏樹の姿勢は戻る。そして私の頭をくしゃくしゃに撫でてきた。
「なんかこういうのも、いいかもね。恋人っぽい」
「うん。というか、俺は遥とすることなら何でも好きだし、良いなって思ってる」
「そっか……」
――リアルな恋も、良いかもな。
私はもう一度、夏樹を抱きしめた。
夏樹の胸元に顔をうずめると、夏樹のぬくもりを丁寧に感じた。フローラルの洗剤の香りがする。雪の冷たさとは裏腹に、温かさが全身に広がる。
こうしていると安心感を得られる。大きな身体に包まれて。昔は私よりも小さな夏樹の手を引いて下校していたのに……こんなにも頼もしくなるなんて。
しかも今、そんな夏樹と恋人になった。
胸の鼓動が速くなるのも少しだけ怖いけど。それに勝るぐらいに心地がいい。これからはここが私の居場所だ――。
不思議だな、恋愛って。
恋愛には答えがなくて、恋愛小説を完璧に書けたと思える瞬間なんて、訪れないと思う。だけどそれが良いのかもしれない。
夏樹はしばらく、私をふわりと雪のように優しく包んでくれていた。
***
少し先に夏樹の背中が見えた。
夏樹の肩には雪が積もり、髪には白い粒が光っている。
「夏樹!」
私は名前を呼んだ。寒くて声が小さめになってしまったけれど、夏樹は気がついてくれた。そしてこっちに早歩きで向かってくる。
「夏樹、恋人になろうよ!」
私は叫んだ。夏樹はその場で立ち止まり、目を潤ませる。昔の、守ってあげたかった夏樹の面影が一瞬よぎる。
ふたりの距離は二メートルぐらい。微妙な距離だったから私の方から近づいた。そして緊張したけれど、勢いに頼って夏樹を抱きしめた。
「夏樹、成長したね」
「今、それ言うタイミング?」
「うん、言うタイミング。だって、無言じゃ耐えられないぐらい恥ずかしいから」
「俺も、カフェで遥に気持ち伝えるの恥ずかしかった」
「分かってる。夏樹がどんな気持ちで言ってくれたのか、分かるよ。だって、小さい時から一緒にいたんだから」
寒い中で抱きしめ合うのは、あたたかくて心地よい。
小説に今の気持ちを丁寧に書けば良いのかな。物語では盛り上がる大切なシーンなのに、リアルではこんなことを考えてしまうのはどうなの?と自分に問いながら、頭の中で丁寧に浮かび上がる言葉を綴っていく。
「はぁ、夢かなこれ」
夏樹の声は少し震えていた。
「現実だよ、多分。夏樹、少しだけしゃがんで?」
「分かった」
言われた通りにした夏樹。夏樹の頭のてっぺんは今、私の胸元辺りにある。私はサラサラな夏樹の髪の毛を混ぜるように撫でながら雪も払い落とす。
「次は俺もさせて?」と、夏樹の姿勢は戻る。そして私の頭をくしゃくしゃに撫でてきた。
「なんかこういうのも、いいかもね。恋人っぽい」
「うん。というか、俺は遥とすることなら何でも好きだし、良いなって思ってる」
「そっか……」
――リアルな恋も、良いかもな。
私はもう一度、夏樹を抱きしめた。
夏樹の胸元に顔をうずめると、夏樹のぬくもりを丁寧に感じた。フローラルの洗剤の香りがする。雪の冷たさとは裏腹に、温かさが全身に広がる。
こうしていると安心感を得られる。大きな身体に包まれて。昔は私よりも小さな夏樹の手を引いて下校していたのに……こんなにも頼もしくなるなんて。
しかも今、そんな夏樹と恋人になった。
胸の鼓動が速くなるのも少しだけ怖いけど。それに勝るぐらいに心地がいい。これからはここが私の居場所だ――。
不思議だな、恋愛って。
恋愛には答えがなくて、恋愛小説を完璧に書けたと思える瞬間なんて、訪れないと思う。だけどそれが良いのかもしれない。
夏樹はしばらく、私をふわりと雪のように優しく包んでくれていた。
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