「遥、嫌なことあった?」
いつもよりも低い声で訊いてきた。そして緊張感が伝わってくる視線。見透かされないようにいつも通りの自分を保とうとしていたけれど、夏樹にはお見通しだった。
「クレームがあってね、私が原因なんだけど……」
言葉と共に深い息も吐いた。
夏樹は黙って真剣に話を聞いてくれている。
詳しく説明すると、悶々としていた気持ちが少しだけ落ち着いてくる。聞き上手すぎる夏樹。
――やっぱり夏樹は、すごいな。
「でも、最終的には納得してくれて、その件は解決したんだろ?」
「……そうなんだけど」
「遥って、前も言ったけど猪突猛進で明るくて、仕事にまっすぐで。そこが良いなって思うんだけど……」
「思うんだけど?」
「たまに、一方的に押し付けて満足しちゃう時もあるよな」
私をよく観察しているな。最近は、はっきりそういう指摘をしてくれる人はいないからありがたい 。
「分かる。それは自分の欠点だと思う。今回もそのせいでなのかな……」
難しいな色々と。
どんな言葉や行動が正解で、どれが不正解なのか。答えのないものは本当に分からない。責任持たなきゃならない仕事となると、一瞬の謝った判断が仇となるし。
「でも、俺はそんな押し付けて満足しちゃう遥も良いと思う」
「あ、ありがとう。でも仕事でやるのは微妙だよね」
「これから気をつければいいじゃん。とにかく俺はそんな遥も好きだから」
夏樹は少し照れたように目をそらし、小声でそういった。
突然好きだと言われて気持ちが跳ね上がる。別に告白の意味の〝好き〟ではないのに。
「夏樹は昔から聞き上手だよね。お客さんの話をじっくり聞いて、本当に必要な保障を提案してるんだろうね。だから秋山さんも夏樹を選んだのかな。私、ノルマに気を取られすぎて、相手の声を聞き逃してたのかも」
「いや、秋山さんの件は偶然だよ。ただ、お客さんの話をじっくり聞くのが大事だと思ってるだけ」
「私も夏樹を見習おう」
「見習わなくていいよ……」
「あとね、今、書いた文章を二千文字も間違えて消しちゃったの」
私は深いため息をつきながらパソコンに視線をやる。
「文章って、恋愛小説の?」
「そうだけど」
夏樹の前で恋愛小説の話をするのは相変わらず照れて、あえてその言葉の部分は避けていたのに。単刀直入に夏樹は訊いてきた。
「話が少しそれるけど、遥って、まだ一番のタイプはオーナー?」
「……どうかな?」
突然、夏樹が真剣な目で私を見つめてきた。
いつもよりも低い声で訊いてきた。そして緊張感が伝わってくる視線。見透かされないようにいつも通りの自分を保とうとしていたけれど、夏樹にはお見通しだった。
「クレームがあってね、私が原因なんだけど……」
言葉と共に深い息も吐いた。
夏樹は黙って真剣に話を聞いてくれている。
詳しく説明すると、悶々としていた気持ちが少しだけ落ち着いてくる。聞き上手すぎる夏樹。
――やっぱり夏樹は、すごいな。
「でも、最終的には納得してくれて、その件は解決したんだろ?」
「……そうなんだけど」
「遥って、前も言ったけど猪突猛進で明るくて、仕事にまっすぐで。そこが良いなって思うんだけど……」
「思うんだけど?」
「たまに、一方的に押し付けて満足しちゃう時もあるよな」
私をよく観察しているな。最近は、はっきりそういう指摘をしてくれる人はいないからありがたい 。
「分かる。それは自分の欠点だと思う。今回もそのせいでなのかな……」
難しいな色々と。
どんな言葉や行動が正解で、どれが不正解なのか。答えのないものは本当に分からない。責任持たなきゃならない仕事となると、一瞬の謝った判断が仇となるし。
「でも、俺はそんな押し付けて満足しちゃう遥も良いと思う」
「あ、ありがとう。でも仕事でやるのは微妙だよね」
「これから気をつければいいじゃん。とにかく俺はそんな遥も好きだから」
夏樹は少し照れたように目をそらし、小声でそういった。
突然好きだと言われて気持ちが跳ね上がる。別に告白の意味の〝好き〟ではないのに。
「夏樹は昔から聞き上手だよね。お客さんの話をじっくり聞いて、本当に必要な保障を提案してるんだろうね。だから秋山さんも夏樹を選んだのかな。私、ノルマに気を取られすぎて、相手の声を聞き逃してたのかも」
「いや、秋山さんの件は偶然だよ。ただ、お客さんの話をじっくり聞くのが大事だと思ってるだけ」
「私も夏樹を見習おう」
「見習わなくていいよ……」
「あとね、今、書いた文章を二千文字も間違えて消しちゃったの」
私は深いため息をつきながらパソコンに視線をやる。
「文章って、恋愛小説の?」
「そうだけど」
夏樹の前で恋愛小説の話をするのは相変わらず照れて、あえてその言葉の部分は避けていたのに。単刀直入に夏樹は訊いてきた。
「話が少しそれるけど、遥って、まだ一番のタイプはオーナー?」
「……どうかな?」
突然、夏樹が真剣な目で私を見つめてきた。



