中間テストも終わった金曜日の放課後。
咲良と瑛人は、図書室の一番奥の席に並んで座っていた。
机の上には、開いたままの数学の問題集。
「このリミットの問題、意味わかんない……」
咲良がペンをくるくる回しながら言うと、
瑛人がページを覗き込んできた。
「これ? “xがaに限りなく近づくとき”ってやつだよ。
つまり、“到達しないけど、ほぼ近い”って意味」
「ふーん……なんか、もどかしいね。
近づくけど、完全には届かないって」
その瞬間、ふたりの指が、ふと触れた。
ほんの一瞬、だけど確かに触れた距離。
咲良の心臓が、ドクンと跳ねた。
「……私たちも、そんな感じかもね」
「え?」
「ほら、気持ちはだんだん近づいてるのに、
まだ“好き”ってちゃんと言えてない。
まるで、極限値の一歩手前で止まってるみたいな」
瑛人は、少し黙ってから言った。
「言ったら、変わっちゃいそうで怖いんだよ」
「でもさ、リミットって、“そこに向かってる”って証明でもあるでしょ?」
咲良の目は、まっすぐ瑛人を見ていた。
「私ね、限りなく近づいてるってだけで、ちょっと安心するの。
いつか、ちゃんと“好き”って届く気がするから」
その言葉に、瑛人は小さく笑った。
「……じゃあ、俺もリミットの先、目指してみようかな」
ふたりの距離は、確かに“極限”に近づいている。
もうすぐ、限りなくゼロになる“心の差”。



