「じゃあ、今日の問題。これ解いてみて」
いつもの図書室。
瑛人がノートに丁寧な文字で式を書く。


「え、連立方程式?」
咲良がちょっとだけ苦笑する。
「まあ、テスト範囲だしね」
「うん、頑張る……って、これさ」
咲良がペンを止めて、ふとつぶやいた。
「ふたりの気持ちみたいだね」
「気持ち?」
「うん。どっちかひとつじゃ、答えが出せないってところ。
xだけじゃ解けないし、yだけでもダメ。
ふたりが揃って初めて、“答え”にたどり着けるって……なんか、私たちに似てない?」
瑛人は少し驚いた顔で、笑った。
「それ、いい例えかもな。
俺の気持ちも、咲良の気持ちも、ちゃんと聞いて、
それで初めて“ふたり”になるんだもんな」
「……じゃあ、もし私が“x”だったら、
瑛人くんは“y”だね」
「なんかそれ、ちょっと照れる」
ふたりは笑い合う。
けれど、咲良の中に、少しだけ引っかかっているものがあった。
「でも……それって、もしどっちかが変わったら、
“答え”も変わっちゃうってことだよね?」
「……うん、そうだね」
「高校が別になったら、とか。進路が違ったら……
“連立”じゃなくなって、ひとりの式になっちゃうのかな」
瑛人は、咲良の手にそっと触れた。
「それでも、ふたりの“関係式”は消えないと思うよ。
変数が変わっても、ちゃんと向き合って、考え続ければ……また新しい答えが出せる」
「……うん」
咲良は不安そうに笑って、それでも彼の手をぎゅっと握り返した。
今はまだ、確かな未来なんて見えない。
でも、少なくとも今日だけは。
“ふたり”で、ちゃんと同じ式を見ていた。



