(やっぱりクロエはレダー公爵のことが好きなんだわ。婚約者とはいえ二人きりにさせたくないということよね。次からは二人きりにならないようにクロエも誘わないと……)

推し活のためのタオルに発色のいい糸で名前を刺繍するためにはオレリアンの力添えが必須だろう。
たまたまオレリアンがパーティーのためにドレスを用意してくれるとはいえ、それはミシュリーヌのためではない。
間違えてしまった婚約。一年だけのものなのだ。
調子に乗ったり、図に乗ってはいけないことだけは確かである。

クロエは真剣な表情だ。
オレリアンが去って行った方に視線を送った後に、ミシュリーヌにいつもと同じ笑みを浮かべた。
ミシュリーヌはクロエの手を取る。
クロエは不思議そうにこちらを見ているではないか。

(クロエを安心させるために、わたしが伝えられることといえば……)


「クロエ、心配しなくて大丈夫だからね」

「…………!」

「わたし、ちゃんとうまくやるから安心して待っていて」


そう言うとクロエは大きく目を見開いた。
それから、泣きそうな表情で瞼を閉じてしまう。

ミシュリーヌは一年後にはオレリアンと共にいない。
そのことを直接伝えられないのは仕方ないが、クロエならばわかってくれるだろう。


「わかってます。わかってますわ……ミシュリーヌお姉様」

「クロエ……」


やはりクロエはミシュリーヌの気持ちを理解してくれたようだ。
ミシュリーヌはクロエを抱きしめる。
するとクロエは涙声で呟くように言った。


「わたくしだってミシュリーヌお姉様には幸せになってほしいもの」