でもある日、現場で私が焦って患者の出血コントロールに手こずっていたとき。

「ひより!」

突然、名前で呼ばれた。

「落ち着け、大丈夫。お前ならできる」

彼の手が、私の手に触れた。

誰かにそう言われたのは、いつぶりだろう。

私は無言でうなずき、再び止血に集中した。

その患者は助かった。

私の手も震えていたけど、彼の声だけはずっと耳に残っていた。