しかし、悠瑚の病状は安定しなかった。一時的に回復したかに見えても、またすぐに悪化した。

医師は家族にその現実を告げた。「残された時間は、それほど多くないかもしれません」

大弥は壁を殴った。紫苑は医学書を読み漁り、何か治療法がないかを探し続けた。

「紫苑」ある日、悠瑚が静かに呼びかけた。「もう十分だよ」

「何を言ってるの」紫苑は首を振った。「新しい治療法だってあるはず。まだ諦めるのは早いわ」

「ありがとう。でも、俺はもう満足なんだ」悠瑚は窓の外の桜を見つめた。「君が医師になる夢を叶えてくれた。大弥も変わってくれた。これ以上、何を望む必要があるだろう」

「でも…」

「お願いだから、俺のために泣かないで」悠瑚は紫苑の頭を撫でた。「君の涙は、患者さんのためにとっておいて」