悠瑚の治療が始まった。抗がん剤の副作用で髪が抜け、体重が激減した。しかし、彼は弱音を吐かなかった。

紫苑は受験勉強の合間を縫って、病院に通った。医学書で調べた知識を元に、悠瑚と治療について話し合った。

「紫苑の説明、お医者さんみたいだね」悠瑚は点滴を受けながら微笑んだ。

「まだまだよ。でも、絶対に医師になって、悠瑚を治す」

大弥も変わった。複数のアルバイトを掛け持ちし、治療費の一部を稼ごうと必死だった。家族への態度も以前とは違い、母親の体調を気遣い、家事も手伝うようになった。

「兄貴、これ差し入れ」大弥は病室に手作りのおにぎりを持ってきた。

「大弥が作ったの?」悠瑚は驚いた。

「へたくそだけど」大弥は恥ずかしそうに頭をかいた。「母さんに教わったんだ」

三人は小さな病室で、おにぎりを分けて食べた。それは、どんな豪華な食事よりも美味しく感じられた。