私の恋の解禁です!~嫁を推さない利害一致の契約旦那と幸せな離婚の進め方~

女性が2人集まれば化粧室での噂話は長くなる。
ましてや3人も集まるとお昼休憩を軽く超えてしまいかねない。

「既婚でも社長になら一回だけでも抱かれたい!」
「分かる!最近本当に結婚してるかも謎だし。実は独身とか?」
「天水グループの嫁って響きも良い!」

この手の噂が止まることなく聞こえてくる。
先に進まない離婚へのプレッシャーがじわりじわりと私を蝕(むしば)んでくる。

「あの…」

そうでもないですよー?
良いのは金銭面で困らない点のみで生活に甘いは期待出来ません!

「あの…」

2度声を掛けて諦める事にした。
私の声なんて盛り上がった彼女達には聞こえなんだろう。

(本妻…嫁はここに居ますよー)

義母の根回しで私の情報が漏れ無いよう会社のトップシークレットになってる。
だから誰一人私が嫁だなんて知らない。

「でも川崎さんか高梨さんが奥様じゃないかって聞いたんだよね」
「帰国したら奥様をお披露目するんでしょー?」
「私達なんて太刀打ちできない!」

この人達もレベルは高い方だと思う。
そんな彼女達でも二人が相手なら身を引く。
それだけ彼女達には誰も寄せ付けない魅力があるってこと。

「私も早く進めなきゃ…住む場所と、」

ん?
私が考えることってそれだけ?
そう考えると後は離婚届に判を押すだけ。
離婚も身内が絡まなければ簡単な作業!

「ホント紙一枚の関係なんだな…」

まだお喋り中の彼女達の後ろをサーっと通り化粧室を静かに出た。



「勇仁(はやと)君アウト」

課長が目の前のデスクで無情な笑みを浮かべて首を縦に振り就業ベルをBGMに帰る支度を進めてる。

「どうしても無理ですか?部長に怒られるんですよ〜」

鈴木 勇仁(すずき はやと)くんは昨年新設した不動産部門の男の子で頻繁にこの部署に来る課長のお気に入り君。

表情がころころ変わる彼は私にとってもお気に入りの後輩。

「初果さーん、頼みますよ~」

半泣き姿に心が動きそうになるけど簡単に「良いよ」とは言いづらい。
この子だけ特別扱いも出来ないし一番は甘やかしたら彼の成長にもならないから。

「私も予定あるし」

「ごめん」とだけ付け加えた。

可哀想かな?
でも情けは人の為にならない!
大きい身体を丸めて椅子に座る姿が小さく見える。

「家庭の事情?」

課長のボソッと言った言葉に首を横に振って“違う”とアピール。

今日の予定は不動産屋を巡るのが理由。
課長の「家庭の事情」と言うより私の事情であって予定があるのは本当のこと!
でも困ってる彼を放置して帰るのも気分が悪い。

「飯!飯奢りますから!!今回だけ頼みます」

メシ?!
奢り?!

「先に上がって下さい。私は大丈夫なんで」

奢りに弱い私。
今後のことを考えるとこれからの生活費を切り詰める必要がある。

「本当に大丈夫?」

旦那と一緒に家で過ごすなんて元々無いに等しいから無駄な心配。
どうせ離婚するんだしね!

「心配しすぎです。勇仁くん始めるよ~」

落としたパソコンの電源を再度入れてバッグから眼鏡を取り出した。

「ありがとうございます」

涙目で言われて「任せて」と彼の肩をポンと叩きパソコンに目を向けた。


宛先確認してEnterキーを押して送信!
明日の朝一に部長さんが確認出来るはず。

「これが最後の資料だね。部長にメールしといたから大丈夫でしょう」