「その顔ホントに嫌いです」

子供の喧嘩並みの陳腐な煽りにも動じない彼は立ち上がり綺麗な顏を近づけてくる。

このパターンは…

「近づかないで下さい‼」

来た来た来た…

「だから!り、りこ」

私の下アゴに指を添わせ軽く唇にキスを落とす。
何も言わず抱き上げられソファに降ろされ私を見つめてくる。

「君に好かれる為の顔じゃない」

そんなの知ってる!
私も言って後悔しましたよ。
そりゃ私の為に産まれた顔じゃない事なんて知ってます。

「それでも嫌いなんです」

負けじとボソリ呟くと、

「あ、そう」

一言だけ。
今日はまだ会話をした方だからマシかも知れない。

「離婚話…んっ、ちょっ」

呟いてみたけど彼の唇は嫌味な弧を描いてまたキス。
どんどん深くなるキスは私の口内を犯しつくして行く。

「続ける?」
「続けるわけないです」
「それは残念」

言葉と表情が全く一致してない‼
無表情でも言葉は言葉だけは甘めの棒読み。

「まじで最低…」

顏が熱持つ私をソファに放置してすでに
彼は何処かに電話を掛けて流暢な英語で話してる。

やっぱりダメだった。
次を考えなきゃ…。
現実の生活は会話とも言えない言葉を交わして適度に身体を合わせるだけ。

大人ですし?
旦那イケメンですし?
タイミングと欲とムードに流されるとやっちゃいません?

(…私ってバカ?)

そりゃあ甘い結婚生活にならないのも分かってた事ですけどねー。

私はホントにただ!

「離婚したいのに」

彼に私の言葉は届かない。
私が離婚を急ぐのには理由がある。


事は一ヶ月前に遡る。

太陽がまぶしい。
そして…もっともまぶしい光景が目の前に舞い降りた。
側室VS側室の青い炎は周りには見えない。

「お久しぶり。七織(なお)のこと今までありがとう」

「今さら?ふふっ、もう七織から引退したら?」

本社に続く信号を真っ白なパンツスタイルで颯爽と出社する姿と淡いブルーのワンピース姿で迎え撃つ二人の姿は綺麗でそしてかっこよすぎる。

「あれ、川崎さんじゃない⁈」

川崎 凛音(かわさき りおん)
天水のスイーツ部門の企業を担当しててパティシエの有資格者。
ハーフで元モデルと言う肩書の彼女は天水の顏で有名人。

対する‼

「高梨さんも帰国したみたい!凄い美人…消えて無くなっちゃいそう」

高梨 柚(たかなし ゆず)
天水グループ秘書課会長付きの秘書検定1級マルチリンガル(5か国語)を操る女。
お顔も綺麗で派手なタイプと言うより儚げな美人タイプ。

消えてなくなる?
あの人達はそんな珠(たま)じゃない!
来る来る…きっと絶対来る!
あれ、あのテレビから出てくるヤツに私には見える!