「離婚しましょう。いや…離婚します‼」

「急に何言ってるの?」

やっぱり自然を装うのには無理がある。
それなりに一応準備をしてたから早速試してみるつもりだけど聞き返して来るとか予定外過ぎる。

8ヶ月と5時間!
私に愛なんて微塵も感じない結婚生活に費やした時間。

「これを見て下さい」

携帯をバンッと激しくテーブルに置きたいけど壊れる不安から激しくはちょっと無理。
一応形ばかりを見せて問題のSNSのページを開いて見せた。

目の前の旦那は動じない!
いや、動じるわけがない!

「ふーん」

それどころか携帯にほんの少し目をやり顔色一つ変えない興味の無さが本当にムカつく!

「離婚ね~」

また視線を自分の手元にやり綺麗な細い指でタブレットを動かしてお気に入りのコーヒーを優雅に飲んでいる。

「これは浮気現場の証拠じゃないですか」

これは質問では無い。
この人を交渉の舞台に引きずり出すのが一番の目的で事実を突き付ける事が最終地点じゃない。

「きちんと見て下さい」

ほら、ここを見ろ!!
目に焼き付けなさい!!

「これは不倫です!」

SNSには高級クラブからモデル並みの美女と店を出てくる旦那のツーショットの写真。
ちなみに旦那の腕に美女がまとわりついてます!

「そう言う風に書いてないだろ」

世の中の道徳!倫理観は何処へ?

本当なら不倫で熱愛って書かれて炎上案件のはずなんだけど記事には一切不倫の“ふ”の字も無い!

「書く書かないはどーでも良いんです!」

そりゃそーだよ!
結婚式も結婚指輪も無し。
二人で外出?そんなのまぁーーーーったくないんだから。

彼の嫁という私の肩書はゼロに等しい。
夢?妄想?幻(まぼろし)レベル。

「と言う事でこれにサインを」と離婚届を携帯の上に広げた。

「…」

反応なし…
そんな彼にイラッとするけど予想通りと我慢して冷静を装った。

「聞いてます?」

悪びれず冷めたこの態度。
気持ちで負けたら終わり!
引くわけには行かない。

「あの?」
「謝るなら今だけど?」

私の視線にやっと答えたと思ったら真顔で視線のみスッと動かした。

「どっ、どう言うことですか?」

「これに理由と説明が必要なの?」

全部バレてる…?
あの女の子に10万も払って買収したのに!!
これを拡散しまくったのは私!
尾ひれが付いてSNSのニュースにまでなっちゃった。

「君は会社の株価とか気にしないんだろうな」

「天上天水(てんじょうてんすい)唯我独尊って言われるのに気にするんですか?」

“宇宙の中で天水より尊い者はいない”と皮肉を込めて私はそう呼んでる。

「全然。言ってみただけ」

ですよね。
こんなことをして彼にも会社にも痛くも痒くもないのは分かってる。

天水 七織(てんすい なお)32歳 天水グループ代表取締役社長。
一大帝国の誰もが認める絶対君主。
まあイケメンで…金持ちで…。
黒髪から覗く瞳に綺麗な鼻筋。
見た目のイケメン具合はご想像にお任せします!