私の恋の解禁です!~嫁を推さない利害一致の契約旦那と幸せな離婚の進め方~

「荷物ってそんなに無いな…」

退職届を出すにも理由を頭に巡らせる。
どうにかするしかない!
この自信はこの子のおかげかも。
1人で産んで育てるなら強くならなきゃ!

「ママ頑張るからね。貴方を絶対奪われないように」

怪しまれない程度の荷物をまとめてノートパソコンで“退職願”と打ち出した。


ー半年後


「良い風…」

1LDKのアパートは築30年。
開けた窓から心地良い風が入って来て春の訪れを告げる。
あれから1ヵ月は有給を使って旦那に秘密裏に動きここに引っ越しするまで大人しく過ごした。

「課長達ご夫婦に申し訳ないことしたな…」

「遠い親戚が見つかって病気だから付き添いたい」と天涯孤独の私は一世一代の嘘を繰り広げて退職をお願いした。

そして離婚届をテーブルに置き彼女達には一方的な連絡を入れて唯一の連絡ツールの携帯も解約した。

我ながら素早い行動に驚く。
子供が出来るって偉大でつわりには苦労したけど何とか皆んなの支えと助けがあってやってこれた。


…♪


短く鳴った音にメールを開くと恵美から“大丈夫?”と一言だけ。

「大丈夫っと。もう心配性なんだから」

恵美の実家は長年続く田舎の八百屋さん。
そのおかげでお店で無理をしないで働かせて貰えたり住む場所もたまに食事もお世話になってる。
産婦人科も近いし本当に恵まれた環境に感謝しかない。

「初果のおかげで私は結婚結婚!うるさく言われないし助かってるの」

そう笑って恵美も遠くから私を支えてくれてる。
周りが温かい人達ばかりで“家族ってこうなのかな?”と考えることが増えた。

「さてと仕事に行きますか!」

お腹を擦ってゆっくりと立ち上がり真向かいの職場に歩き出す。

「ええええ!!」

「おはようございまーす。どうかしました?」

“八百屋やまうち”は今日も賑やかで事務所に入るなり聞こえた叫び声に何かあったと感じながらも静かに机の引き出しにポーチと携帯とお財布を入れた。

「環希(たまき)うるさい」

社長である恵美のお兄さんの誠(まこと)さんに一声「でも〜」と言いながらの社長夫人であり恵美の義姉の環希さんが心配そうに私を見た。

「初果ちゃん聞いて!」

「あぁ、初果ちゃんにも話しとかなきゃな」

誠さんは依頼書と書かれた会社の封筒を私の机に置いた。

「この会社が町内の古民家を改装してスイーツの専門店を始めるらしいんだけど」

眉間に一本シワを浮かべて困った顏をした。

封筒には天水系列企業の名前が印刷されてるからだと思うけど国内で天水が絡まない企業を探す方が難しい。

こんなことで神経をすり減らしてたら子供なんて育てられない。

「直接ですか?」

「まぁね、地元の果物を使いたいらしくて。あれだよ、地産地消的な」

はっきりした性格の誠さんにしては歯切れが悪い言い方に不安が募る。

「それだけですか?」

環希さんが「初果ちゃんは冷静で大人だもんね!!」と目を輝かせて意味の分からない事を口走る。

「また詳しくは話すから。まず今日はこれお願いするね」

逸らされた会話を戻すわけにも行かず誠さんから「打ち合わせ場所」とメモを受け取った。