チュンチュン
鳥のさえずりが聞こえる。
身体がだるいし眠すぎる。
胃もムカムカする。
「チュンチュン…?!」
うちのマンションで鳥のさえずりなんて聞こえない…はず?
勇仁くんにご馳走になってどうやって帰った?!
重すぎる瞼を恐る恐るゆっくり開けると目の前に勇仁くんの寝顔がドアップ。
頭を動かさなくても分かる畳の感触に座敷で雑魚寝してたのが分かった。
疲れてたとは言っても寝たなんてやばい!
さてどうする?
だいたい私に興味の無い旦那だし心配する必要は無いけど一応まだ婚姻中。
確か携帯に連絡は入ってたけど…どうせ。
「川崎さんと一緒か」
出しかけた携帯はバッグにしまって店を静かに出て一駅分を走る事した。
ーカチャ
エントランスのコンシェルジュさんに会釈をしつつ何とか部屋の前までたどり着いた。
鍵と言っても指紋とパスワードで指を動かせば開くけど開閉音はどうしても鳴ってしまう。
どうして後ろめたい事をするとこうも音1つ気になるのか?
無駄に長い黒絨毯で敷き詰められた廊下の先にはいつも寛ぐリビングがある。
靴を静かに脱いで音を立てないように自分のルームシューズに足を沈めた。
「川崎さん、居ないよね」
リビングに人の気配を感じないし大理石の玄関に彼女の靴は見当たらない。
ホッとした。
こんな豪邸でも今は私の自宅で帰って来る場所。
でも…
「私が帰らなくても旦那は興味ないってね」
寂しい気もするけどそこは利害関係だと頭に巡らせて自室を目指しゆっくり歩く。
「大変そうだな」
「ひぃッ」
背後からの低い声。
振り返る?
声が怖い。
でも怒られる関係じゃないし大丈…ぶ
「じゃない…」
振り返ると旦那である彼がよく籠る仕事部屋から腕を組みドアにもたれ掛かってる。
ベージュのコットンシャツの腕を捲り黒のパンツスタイルはいつもの彼と違いカジュアルだ。
「朝帰り、いや昼か」
腕時計は…
「まだ11時ですけど」
「開き直り?」
そんな不機嫌になられる覚えはない。
だって離婚の話もしてた事だし?
貴方は川崎さんと一緒だったし?
「すみませんでした。い、ち、お、う!今は社長夫人がですもんね~」
「わざとらしく一応を強調するなよ。ったく、飲み過ぎだろ。顔色悪い」
「飲んでない…っうぷ、くっくっ…くるしぃ」
気持ち悪い‼
今日はどんどん胃から上がってくる!
堪えるのに必死。
「な…なんです…ッぷ」
「こっち来い」
急に繋がれた手に驚いて振りほどこうとするけど完璧なホールドでリビングではなくトイレに。
「引っ張らなくても…っうっ…大丈」
「大丈夫じゃないだろ!」
身長差がある分歩幅も違い過ぎて引き摺られてる感じ。



