ある日の、何気ない会話の中で、彼にふと聞いてみたことがある。





「間宮さんって、なんか夢とかあるんですか?」


「えー?!急だね?夢か・・・」


優しい彼は突然の私の質問に少し戸惑いながらも考えてくれる。



えぇーという声。考えながら目をつぶる横顔。長いまつ毛。パーマのかかった髪。綺麗なフェイスライン。程よく高い鼻。綺麗な形の唇。



平均的な身長の彼を私は少し見上げながら目に焼き付ける。


全然、めっちゃかっこいいとかじゃないけど、
あぁ、
やっぱりこの人が大好きなんだろうな、私。




大人になってもこんなに人を好きになると思っていなかった。



うーん、と腕を組んで、数秒考えたのち彼は言った。


「んー夢っていうかわからないけど」






「孫見てみたいかも!



娘たちが、産んだ子供を見るのが夢?かな!」





心臓がドクン、と鳴り


胸が、ゆっくりと刺されるような痛みを感じ、
あ、でも、返事しなきゃ、





「おー!素敵な夢じゃないですか!娘さんたち、間宮さんにそっくりですから、お孫さんもそっくりかもですね?!」




笑顔で、返事できているかな?私



こんな感情になっても笑顔で何事もなく返事できるなんて、私大人になったなぁ






今までだって、叶うなんて思ってなかったけど








私はなぜだか、

その彼の夢を紡いだなにげない一言で、
この感情に終止符を打つことを決めた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私が彼と出会ったのは、
大学を卒業したあと新卒で入社した製薬会社だった。


その年の桜は早めに満開を迎えて散りかけていたのを覚えている。



私は営業部に配属された。
彼は営業部の主任。


その時私は22歳。
彼は15個年上の37歳だった。







「おはようございます!本日より営業部に配属されました、柏木 桜(かしわぎ さくら)と申します。よろしくお願いします」


今年度営業部に配属されたのは私のみだった。



「はじめまして僕が柏木さんの教育担当をする間宮 拓実(まみや たくみ)です!よろしくお願いします」


第一印象は丁寧でハキハキしていて、よく笑う、笑顔の素敵な人だなと感じた。



さすが営業の人だな〜って感じ。


なんなんでしょうな、この営業って感じる人の特徴。


仕事は順調に覚えていくことができた。


もちろんミスをして落ち込んだりすることもあったけど・・・


間宮さんは感情的に怒ったりすることはなく、どこが悪かったのか、どうしたらいいか一緒に考えてくれた。


素敵な上司に出会えたな〜、

私は昔から、結構出会う人には恵まれている方だと思う。



そして今日は約半年の研修を終え、来週からついに独り立ち!
部署内の数人で飲みに行くことになった。


「柏木さん、半年の研修お疲れ様!これからもよろしくお願いします!ということでカンパーイ!」

「「「カンパーイ!!!」」」


全員の生ビールを流し込む音。

ゴクゴクと幸せな音だけ響く。


「あ〜!!!うま〜!!!」

これまでの小さな失敗や、軽い愚痴など仕事の話をみんなで話す。
2杯、3杯お酒も進む。

みんないい人で、本当にいい会社入った〜と改めて感じた。


何度か小さな飲み会はあったが、今日は初めて間宮さんと隣の席だった。

「柏木さん、よくお酒飲むんですか?」
「家ではあまり飲みませんが、飲み会は好きです!間宮さんは?」
「僕はお酒が大好きで・・毎日5杯以上は飲みます」
「えっ5杯以上ですか?!」

毎日5杯以上??初めて聞いてびっくり。

「奥さん、怒らないんですか?」
「いや〜怒りはしないですが、もう呆れてますよね」

いつものように笑いながら答える間宮さん。

よく考えたらはじめてこんなに近くで話すかも。

なんだか、いい匂いがする。
決して香水とかじゃない。
よくある全然キツくない柔軟剤の柔らかい匂い。
当たり前だけど奥さんが洗濯しているんだろうな〜。

これは、、、既婚者の匂いだな。

あ〜、なんか間宮さんってめっちゃかっこいいってわけじゃないけど、笑う時はとびきりの笑顔で・・・キュンじゃないけどあっなんか良い、素敵かも。

なんて表現したらいいか難しいな・・・
でもこれは可愛いという表現が合っている気がする。


おじさんに可愛いと思うのわかりますか?
あれ?私誰に話しかけてる?


「柏木さん、お酒弱そうですね」
また笑いながら言われる。
「めっちゃ弱いってことはないですけど、あんまり強くはないかもです」
「酔うとどうなるんですか?」
「え〜、でもいつもよりベラベラしゃべってテンションが上がるくらいですかね?飲み過ぎるとトイレから出てこれません・・・」
「ええ、そんなにベロベロに酔うこともあるんですか!」

僕も大学生の頃そんな感じだったな〜柏木さん半年前まで学生だったもんな〜と言いながら美味しそうにお酒を飲む間宮さん。

なんだか、会話が弾む。楽しいな〜。
ほろ酔いなのもあるのかな。

今日で、すごく距離が近づいた気がした。
あとやっぱりすごい良い人。


会社とか友達とかで変わると思うけど飲み会って、男の人の性格というか、心の中が見えるというか・・・
なんだか真の姿が見える気がする。


うわ〜ダメだな〜無理と思うのは
酔っ払って、ボディタッチしてくる奴
なんか気持ち悪い会話に持っていく奴
要するに下心出してくる奴だよね。

あと、女の子の様子を伺って、普通だったのに上のタイプに変貌する奴ね。


まあ、私とかもこんな女嫌だなとな思われてるかもしれないけどさ・・・


間宮さんタイプは1番良い。
いつも通りの適度な距離感。
でもいつもより親しくなれる感じ。




こういう、普通に考えたら当たり前みたいなことができない人の方が多いよね。



間宮さん、いいかも。

間宮さんとなんかあったらおもしろいな〜
なんて軽く最低な妄想しようとしていると


「そろそろお開きしましょう!来週からも仕事頑張っていきましょう!!お疲れ様でした〜」


飲み会が終わった。