世界は、きっと美しい。~屋上から飛び降りた先は、太陽を紡ぐ異世界でした~

 探査機の指す場所は、岬だった。

 海の見える眺めのいい場所。


 その岬に着くと、昨日同様、多くの炎狩人がいた。

「ここら辺を探そう」

 端夜の指示の下、周辺を探す。

 と言っても、燈の玉はそう簡単に見つからず、代わりに、イブリやセンブリといった花を咲かせる草花を見つめていた。

「これは、ダンギクだ。花自体は小さいが、囁かで綺麗な花だ」

 私が見つめている、青紫色をした花を指さして、端夜が説明する。

「そうなんですね」

 ぶっきらぼうに相槌を打つ。

「ああ」

 頷いて、端夜は燈の玉探しを再開した。

 しゃがんで、どんどん岬の内側の方に進んでいく。


「助け、て」

 岬の向こうから、男性の叫び声が聞こえる。

 岬に振り返ると、岬のむこうに手だけが飛び出してくる。

 ひっ。

「お願いだ、助けてくれ」

 岬の向こう側を覗くと、男性の炎狩人が岬から落ちる寸前になっていた。

 手で岬の先端を掴み、踏ん張っている。

 このままだと、あと数秒で、落ちる。


 ぐっ。

 岬の先端で食いしばっている手を取って、私も力いっぱい引っ張る。

 でも、全然、引きあがらない。

 そりゃそうだ。

 相手は成人男性。

 中学生で女の私の力で、引きあがるわけがない。

 どんどんどんどん、私も下に引っ張られていく。

 ついには、私も岬の先端を掴む状態になる。

 綺麗、か。

 落ちたら死ぬかもしれない。

 そんな危機的状況なのに、そこから広がる景色を見て、そう思った。

 本当にヤバいって言う時って、意外と冷静になってしまうものなのかもしれない。

 なんてことを感じる。


 あー。これ、落ちるな。

 どうせ、一度飛び降りて死んでるわけだし、生きたところで、価値なんか。


 トン。

「おい。掴め」

 端夜が私の手を掴んで、手を引っ張る。

 凄い。

 どんどん私は上に上がっていき、足が地面に着いた。

 そんなに筋肉質だとは思わなかった。

 だが、近くで見ると、確かに引き締まっている。

 私の足が岬の上に着く。

 端夜の顔を見て、感じる。

 私、死ななかったんだな、って。

 死ねなかった。

 前に落ちた時はそう思ったはずなのに、今回はなぜかそのことに安心していた。


「迅斗。来てくれ」

 端夜の声に気付いて、迅斗も助太刀する。

 二人で「せーの」と、声を合わせて、力を出し合う。


「ありがとうございます」

 深々と頭を下げている。

「いえ」

 去っていくその人に、会釈して見送った。


「燈の玉は見つかったようだ」

「えー。今日もか」

 いじけたようなむすっとした顔を迅斗がしている。

「いいことだろ」


 この世界が美しい、か。

 認めるのは癪。

 だけれど、確かに、美しいのかもしれない。

 私が言った、我欲だけの世界なら、私もあの人を助けなかったはず。

 そして、宿の人もおまけをしなかったはず。

 人を助けるってことすら、自分を善人にするための欲と捉えることもできるけど。

 もし、そうだったとしても、世界は美しいのかもしれない。

 どんな形でさえ、人を助けたいって言う衝動を持っているのだから。


「どうぞ。ごゆっくりおくつろぎくださいませ」

 迅斗の予約した旅館に入ると、旅館の人が温かく迎えてくれた。


 お刺身に、お肉、茶わん蒸しに、デザートに栗きんとんにわらび餅。

 お腹が膨れて、弾けてしまいそう。

 量はとても多かったが、それはもう美味しかった。


 重くなった腹を抱えながら、私はベランダに立った。

 空に浮かぶ輝く星たち。

 死んだら、星になる。

 そんな風に小さい頃はよく言っていたけれど、星になったって、いいと思ってしまうくらいに、美しい。


 美しい。

 そう考えると、少しいい響き。

 この世界が美しいのか。

 それはまだよくわからないけれど、この星空は美しいなと思う。

 綺麗にきらきら光れて、光に強さの違いはあっても、どれだって美しい。

 そう思いながら、星を眺めていると、端夜もベランダに出てきた。


「あ、助けてくれてありがとうございました」

 沈黙が重たくて、頭を下げた。

「いや。気づいてくれて、助かった」

「あのまま気づかなければ、落ちていたかもしれないからな」


「この世界が美しいってのはどうだが、分からないけど、この星空は綺麗だなとは思います」

 何気ないように、小さく呟く。

 端夜は、口を開けて、驚いた顔をした。

「ただ、なんとなくきれいだなって思っただけです」

「そうか」

 目を細めて星空を眺める。

 神社で願いごとを唱える時のように、端夜は目を閉じて、聞こえないほどの小さな声で、何か呟いた。


「おい。何してるんだよ。仲間外れはひどいぞ」

 そう言って、迅斗もベランダの方に出てきた。


「何、話してたん?」

「星が綺麗だなって言う話だ」

「ふーん。星が綺麗、か。端夜って綺麗とか美しいって言葉好きだよな」

「そうだな」

 そう呟いて、星空を仰ぐ。


 この世界は美しい、か。

 私は暗くなった部屋で布団にもぐりながら、そのことを考える。


 この世界は、残酷な部分もある。


 でも、この世界には人を助けることを進んでやる人もいて。

 それがエゴというのかはわからないけど。

 でも、綺麗な景色や花もあって、けなげで、素朴で不器用に咲く。


 そんな世界も悪くないのかもしれない。

 それはそれで、美しい。


 この世界は美しい、のかもしれない。