世界は、きっと美しい。~屋上から飛び降りた先は、太陽を紡ぐ異世界でした~

 今日は、住民の通報で燈の玉は早朝に見つかったらしい。

 急な休みができたので、食料が減ってきたこともあって、今日は買い出し。


「いらっしゃいませー。今日は魚がお安いですよ」

 店主の客呼びの声が盛んに響く。

 商店街は、人が混み合っていて、端夜を追うので必死なほど。


「このパンを十個ください」

「はいよ。毎度あり」


「カノウキミハ。この野菜を買ってきてくれ」

 メモの紙を渡される。


 おつかい。

 その言葉に嫌な記憶を思い出しながら、言われた店へ歩く。


「これと、これと、これください」

 紙に書かれた野菜を指さしで、注文。

「毎度ありー」

 渡された野菜を胸に抱えて、歩き出す。

 人に押されて、転びそうになりながらも、ようやく端夜のいるところ仁多通り着く。

「ちゃんと、買ってきましたよー」


 私たちは、大体の買い出しが終わり、商店街を後にした。

「宿だが、空いていないようなので、烈夜(れつや)先輩の家が近いから、そこに泊めてもらうって言うのはどうだろうか?」

 烈夜先輩というのは、端夜の師匠なのだそう。

 炎狩人になるための学校に入る時の推薦人としてお世話になった人、なのだそう。


 烈夜先輩の家に着いて、ドアノッカーを叩く。

「すみません。端夜です。一晩、止めてもらえないでしょうか」

 家の中から出てきた女性に端夜がそう伝える。

「ちょっと、待っていてください」

 そそくさと家の中に戻って、小柄の男性を連れて戻ってくる。

「おお。端夜か。久しぶりだな」

 懐かしげな顔を浮かべて、微笑む。

「烈夜先輩、お久しぶりです」

「もう炎狩人はやめたんだから、先輩をつけるのは止めてくれよ」

 ほんのり嬉しそうに照れる。


「ところで、後ろのお二人は?」

 私と迅斗の方に目線を送る。

「ああ。こっちが炎狩人の迅斗で、こっちが炎狩人じゃないんですけど、いろいろ事情があって、同行しているカノウキミハです」

「そうか。しっかり休むといい」


「烈夜の妻・キルマと申します」

 先程の女性が頭を下げる。


「キルマ。かわいい名前ですね。どういう感じですか?」

 申し訳なさそうに笑う。

「あいにく、私は、炎狩人ではありませんので…」

 説明によると、漢字の名前は炎狩人名といい、炎狩人が持つもので、そうでない人は片仮名の名前なのだそう。


 と言うことは、私の名前、片仮名と捉えられていたのか。

 これからは、名前のキミハとだけ、名乗るようにしよう。


 家の中に上がり、キルナさんが用意してくれた食事を口に運びながら、二人の懐かしばなしに耳を傾ける。

「端夜。このバッジ、よかったら貰ってくれないか」

「烈夜先輩が炎狩人だった証なのに、いいんですか?」

「ああ。もう炎狩人じゃないしな。それに、証なんて、自分の記憶で十分だろ」

 そう、笑って、端夜にバッジを差し出す。

「死んではねえが、形見として持っとけよ」

「ありがとうございます」

 端夜は、深くお辞儀をして受け取った。

 そして、大切そうに黒の巾着袋の中に入れた。

「せっかくなんだから、ちゃんとつけてくれよ」

 烈夜先輩は軽く苦笑いをしたが、

「先輩の大切なものなので」

 と、真顔で言う端夜に、嬉しそうに笑った。