世界は、きっと美しい。~屋上から飛び降りた先は、太陽を紡ぐ異世界でした~

「起きろ。旅館を出るぞ」

 端夜に起こされて、私は旅館を出た。


「炎狩人さん。少しばかりですが、持って行ってくださいな」

 旅館の宿主が、パンの入ったバスケットを差し出した。

「かたじけないな」

「いえいえ。また、泊まりに来てくださいな」

 宿主に心地よく送られて、私たちは宿を後にした。


 沈黙が、苦しい。

「どこに、行くつもりなんですか?」

「ここだ」

 端夜は、GPSみたいな小さな機器を指さした。

「これは、燈の玉の探査機だ。燈の玉は燈砂(とうさ)というものと同時に落ちる。その砂の位置をこれで、知ることができる」

「なら、滅亡する可能性って、ゼロじゃないですか」

「いや、燈砂は風で飛ぶからな。今日は風速五メートルくらいだから、多少飛んでいるかもしれないな」


 土でできた道を歩いて、探査機がさす場所に無言で向かう。

「ヨオ! 端夜}

 元気のよさそうな、端夜と正反対な雰囲気を纏う(まとう)人が、手を振る。

「ああ」

 気だるそうに、端夜はそれに答える。

「ん? この娘、何だ?」

「ああ。昨日、林で倒れていたので、助けた」

 本当に、必要最低限の事しか喋らないな、と思ってみていると、迅斗がにやにやした顔になる。

「まさか、お前も先輩みたいに結婚するのか?」

 そう言って、端夜の肩を叩く。

「は?」

 するわけないだろ。こんなやつと。

「そのつもりはない」

 迅斗によると、炎狩人は最近まで結婚が禁止されていたらしい。

 この世界を守るためには、その枷となる子や妻を持つべきではないという考えかららしい。

 と、まあ結婚なんかするわけないのだから、そんなことはどうでもいい。


「俺は、迅斗だ。よろしくな」

「あ、どうも。加納君葉です」

「カノウキミハ? 長いな」

 迅斗が首を傾げる。

「カノウが名字で、キミハが一応名前なんですけど」

「そうか」

 分かってなさそうな表情で、でも、元気だ。


 端夜が胸もとにつけている炎があしらわれたバッジ。

 それを迅斗も付けているから、おそらく炎狩人の印か何かなのだろう。


 端夜と迅斗の会話を聞きながら、歩いていると、海が見えた。

 青い波がキラキラと日光を跳ね返して、潮風がそっと頬を撫でる。

「綺麗だな」

 端夜が小さく呟いた。


 この海が綺麗、か。

 綺麗じゃない、とは言わないけれど、綺麗って、ただそれだけを思えるのは、苦労せずに生きてきた純粋なやつなんだろうなと、思う。

「俺は、海好きじゃねえんだよ。入ったら、マジで塩辛いんだからな」

 アウトドア系が好きと、顔にでも書いてありそうな肌色をしている迅斗がそんなことを言うのは、驚きだ。

「お前は、痛い目に遭ったからな」

「そうなんだよ。燈の玉がここにあるかもしれねえって、海に潜ったら、すっげー塩辛くてさ。なかったって報告したら、もう見つかってるしさ」

 大きくため息を吐いた。

「報告の技術、こっちにもあるんだ」

 何気なく言うと、迅斗が過剰に反応した。

「そりゃあるだろ。二度手間になっちまうからな。 てか、コイツこのくらいも知らないのか」

 うるさいな。昨日、来たばっかりなんだから、分かるわけないだろ。

 心の中でそう呟く。


「探査機で、情報を送れる」

 冷静か。と、突っ込みたくなるくらい変なタイミングで、端夜が言う。

「普通の知識もないのに、ついてかれたら危ないんじゃないか」

「そうかもな」

「なら、置いてけよ」

「私は、別に構わないですよ。連れられてきただけなんで」

「いや。やっぱり連れていく」

 逡巡(しゅんじゅん)したのち、端夜がそう、口を開いた。


「別に、行く当てもないんでいいですけど」