世界は、きっと美しい。~屋上から飛び降りた先は、太陽を紡ぐ異世界でした~

「おい。大丈夫か」

 肩を揺らされて、目を開けると、見渡す限りの木があった。


 私、死ねなかったんだな。

 この世界から、抜け出すこともできないのか。


「死にたかったな」

 容赦なく、熱気を浴びせる、天を見上げて、そう呟いた。


「死にたかった? 馬鹿にするな」

 私を助けた男は、ねじれた顔。


「あんたは、どうせ幸せに過ごせてるから、命が大切とかいう綺麗事が言えるんだよ。こんな、我欲に包まれている世界。嫌いに決まってる」

「我欲に包まれてる、か」

 寂しそうに、懐かしそうに、そんな目をして、空を見上げる。


「そんな部分がないとは言わない。だけど、俺は、世界は、きっと美しいんだって思ってる」

「美しい、ね。 それは、無いね」


 その日は、助けてもらった男と旅館に泊まることになった。

「名前は?」

「加納君葉」

「そうか」

 その男は、端夜(はんや)と名乗った。


 そして、ここはどうやら、元の世界ではないようだった。

 太陽が失われた世界。

 ただ、太陽の代わりに燈の玉と言うものが一日に一個、地上に落とされる。

 それを次の日が来るまでに、天に捧げなければ、此の世は滅びる。


 端夜は、その燈の玉を探す職・炎狩人(ほのおかりうど)。

 燈の玉は、この世界のどこにでも落ちる。 海の中、林の中、山の中、様々な場所に落ちる。

 炎狩人は、この世界に計百万人。

 人口の一割ほどの人数が、この世界の滅亡を懸けて、毎日、燈の玉を探している。


 との、説明を端夜から受けた。