世界は、きっと美しい。~屋上から飛び降りた先は、太陽を紡ぐ異世界でした~

 端夜が、空に向かって立ち上がった。

「聞きたくない話なら、耳を塞いでもらって構わない。だが、独り言としてでもいいから聞いてくれ」


 端夜には、姉がいたこと。

 その姉の名前はサクラで、炎狩人を目指していたこと。

 病弱な体のせいで余命宣告を受け、それから一年後に、亡くなったこと。

「世界は美しいんだよ」という言葉が口癖だったこと。

 姉の想いを継いで、端夜は炎狩人になったこと。


 そして。

「俺は姉貴みたいに、心の底から、世界が美しいなんて、思えない。姉貴を殺した世界は憎い。だけど」

 祈るように、空を見上げて続けた。

「世界は美しいって言ってると、本当に美しく思えてきて、少し心が軽くなる。姉貴が訊いてるのが悲しくなるくらいに、頑なにそう言ってたのはこういうことだったのかな」

 固まっていた心が解きほぐされるようにほどけていく。

「信じて何があるってわけじゃない。何にもならないかもしれない。ただ、もしかしたら、奇跡が起こるかもしれない。分からないから、奇跡が起こることを信じて、歩みたい。それは、怖いことだけど」

「私さ、転生者?なんだ。それで、八月の十八日にこの世界で死んで、前の世界に戻らなきゃいけないんだって、だから、炎狩人になれない」

 端夜の言うとおりに、それでも進めばいいって思ってる。 でも。

「なんでこんなにも、後悔は嫌なんだろうね。怖いから。苦しいから。恥をかきたくないから。だけど、後悔は、真剣に考えていた証拠なのに」

 その言葉が、体の芯を伝って、脊髄に触れる。

 本当はできないわけじゃない。

 やってみれば、できないこともないのかもしれない。

 だけど、そう、怖いんだ。

 がむしゃらに頑張って、それでも叶わなかったときの失望が怖い。

 でも、だけど。

 初めて感じた、なりたいという気持ち。

 それは、やっぱり捨てたくない。

「俺は、その日、キミハを守るから」

 差し出された手を震えながら掴む。

「ありがとう。やっぱり、炎狩人になろうかな」


 男に二言はない。 その言葉を少しばかりカッコいいと思っていたけれど、二言になってしまった。

 でも、しっかり考えたから、カッコ悪かろうと、無かろうとそれでいい。


 寝袋の中に入って眠った。

 地面のごつごつした感覚が少し心地いい。

 外のひんやりと冷たい空気と隔てられ、ぬくもりに包まれる。


 目を開けて、チャックを開けると、朝だった。

 寝袋なんて、寝れるんだろうかという心配は全くいらなかったようだ。

 横を見ると、端夜の寝息が薄く聞こえる。

 いい夢を見ていますように、そう願って私はテントの外へ出た。


 端夜のお姉さんはいったい、どんな人だったのかな。

「世界は美しい」という言葉が口癖だったなんて、きっと強くて素敵な人だったのかな。

 端夜の憧れ。

 その人に負けぬように。

「私はこの世界を生き抜いてやる」

 反射する眩しい光に手を伸ばす。

 そう、絶対に生きてやるんだ。