世界は、きっと美しい。~屋上から飛び降りた先は、太陽を紡ぐ異世界でした~

 ザー。ゴォー。

 地面を叩きつけるか如く、激しい雨音が響き渡る。

 目を覚ますと、雨の騒音に包まれた。

 空は深い灰色に染まって、雲の隙間からは光の欠片すら見えない。


 傘を差しても、否応なしに雨水がかかってくる。

 雨は好きな方ではある。

 雨のときって、雨音が耳をさえぎってくれて、自分だけの世界になるような気がする。

 傘の中で小さく歌を歌ったり、言葉を呟いてみたり。

 傘が弾く雨音が私は割と好き。

 だけれど、傘で守れる程度にしてほしいと思ってしまう。


 今日の目的地は、大型の農場。

 地面がぐちゃぐちゃになっていそうな場所。

 嫌だなと思うが、そうなってしまった以上、仕方がない。


 靴が汚くなるのを覚悟して、畑の中に足を踏み入れる。

 ぺちゃと、気持ち悪い感覚が足に残る。

 足は土に触れていないはずなのに、冷たい感覚。


 燈の玉は一向に見つからず、雨も段々と強くなっていく。

 端夜の背中にかかったマントは、滴が浮かんで、少し湿っている。

 ふー。

 口から出た息が白く現れて、あっという間に消えてなくなる。

 雨のせいで、気温が下がってきている。

 震える。 寒い。

 鳥肌が立ってしまって、何度手でこすっても収まらない。

「大丈夫か」

「大丈夫、です」

 みんなこんなにも寒い中、頑張っている。

 だから、自分だけがわがまま言ってられない。

「大丈夫」

 聞こえないように小さく呟いて、足を一歩前に動かそうとした、瞬間。

 視界が黒い布によって、妨げられる。

「俺は大丈夫だから、これでもつけておけ」

 そう言って、後ろからマントをつけてくれる。

 細くて長い、綺麗な指。

 とても美しくて、ぬくもりを感じる。

 気持ちが安らぐような安心するような感覚。

「ありがとうございます」


 ちょっぴり恥ずかしさがある。

 でも、嬉しさのような温かさが、体を温めてくれている。


 傘をずらして、空を見上げた。

 空の色が暗い灰色から少しずつ明るめの色に変わってきた。

 傘に当たる滴の音も小さくなっていく。


 踏み込むと、地面に靴が張り付いた。

 判子のよう。

 ゴム製の弾力のある靴底にべっとりと土が付着する。

 思い足を踏ん張って、上に上げ、一歩一歩と歩き出す。

「ちょっと待て」

 端夜が畑の中のわき道に死を踏み入れる。

 ホウレンソウの葉っぱを優しく捲し上げる。

 その下に、赤く燃える球があった。

 ハンドボールほどの燃え盛る燈の玉。

 その燈の玉は、透明な膜の上に、小さく滴がつく。

 その滴は、わずかな光を反射して、まるでガラス玉のような輝き。

 端夜が震える手で恐る恐る燈の玉に触れる。

 触れた途端、熱気が空へと立ち上がった。


 間近で見た燈の玉は、周囲を圧倒させるほどの輝き。

 恐怖を抱きながら、それでも心が魅了される。


 端夜は、燈の玉に手を近づけて、小さく一呼吸。

 燈の玉を慎重に掴んだ。

 そして、思いっきり腕を後ろに降り、空高く放つ。

 空気を切る音が短く響き、放射物の軌道に、長年の努力と洗練された技術が宿る。

 山の奥まで、高く高く投げ出され、多大な光を放つ。

 燈の玉は空高く昇っていく。

 めらめらと炎を漂わせながら、気高く。


 燈の玉が見えなくなるまでの余韻を味わってから、端夜は探査機を取り出した。

「燈の玉、見つけました」

 送信して、燈の玉が上がっていった空を仰ぎ見る。

 その空に虹がかかった。

 雨上がりの雲が重く漂う中、その鮮やかな色は、優しく喜びを感じさせてくれる、光。