ブルーベリーカラー・レッスン

昼休みに入る直前、
後ろの席の後輩と目配せをする。ほかの職員に気づかれないように。

12時。
のんびりとしたチャイムが1階のオフィスに流れ、ひとり、またひとりと席を立つ。
ここは関東地方の山に囲まれた地方都市にある市役所。外観は100年前に建設された灰色の石造りのままで、見た目はお城か裁判所のようである。
が、内部は昨年リフォームが終わり、白を基調とした広々とした空間に生まれかわった。(まだ慣れない)

私は観光課に勤務して5年になる。目配せした相手は3年前にこの観光課に配属されたイギリス人。2メートルを超える長身だが、プラチナブロンドの髪はふわふわ、喋り方もふわふわ、そして行動もふわふわの天然系マシュマロ男子である。青く澄んだサファイア色のタレ目が思春期の少年っぽくて可愛い。透き通るような肌を持つ正統派の美青年だ。
身体は細身に見えるが胸や腕にそれなりの筋肉があるのが服の上からでもわかる。腰の位置が高い。脚が細い。着せ替え人形みたいだ。
彼は以前、イギリス製のプチプラブランドのスーツを愛用していたが、今年もクールビズが始まり、日本のプチプラブランドのワイシャツとパンツに切り替えた。蒸し暑い夏には蒸し暑い夏を持つ国の服を。実に合理的だが、たまたま家の近くにショップがあっただけに違いない。

私はささっと席を立ち、オフィスを出て売店でお弁当を選ぶ。夏、家からお弁当を持参するのはちょっと怖い。年々暑くなっている気がするし、毎年エアコンの寒さに負けるので、朝はお弁当を作るより寝ていたい。
よかった。長蛇の列ができる前にお弁当と冷たいお茶を買えた。私はささっと売店を出、トイレに寄って後ろでひっつめた長い黒髪をいったん解いてとかし直してまたまとめ、エアコンの寒すぎる風でカピカピになったファンデーションと口紅を塗りなおす。口紅、コーラルピンクからナチュラルオレンジに変えよう。
ずっとパソコンの前にいたから生気を失った目にヒアルロン酸目薬を、口にはブルーベリーの噛むサプリを。

入り口近くのエレベーターで2階に上がる。突き当たりにある旧休憩所にはめったにひとが来ない。1階に綺麗で立派な休憩所も売店の休憩所もあるし、自動販売機の脇にもベンチがあるからだ。

「お待たせしました。先輩」