「よーし、じゃあ今日の収録、行ってきます!」

朝のリビングで、柚が大きな声を張る。
その横には、同じように軽くウィンクを飛ばす綾人。

この2人、仕事となると息ぴったり。
――だけど、普段は言い合いばかりの“似た者同士”。

「同行取材ってことは、カメラも一緒に行くんでしょ?」
私が聞くと、柚はキラッと笑う。

「そう! “芸能人大家族の長女&次男ペアの仕事ぶり”ってテーマだってさ! もう主役感すごくない?」
「ふふ、詩ちゃんのナレーション入りで、全国放送だな」
綾人がカジュアルに言うけど、耳がほんのり赤いのが分かった。

収録は都内のテレビ局スタジオ。
番組は、視聴者参加型のバラエティ。
今日は料理対決のロケ企画で、柚と綾人は“芸能人チーム”として参戦!

——のはずだった。

◆現場で事件

スタッフのトラブルで、用意されていた食材が届かない。

「えっ!? タイムテーブル押してるのに!?」「今から手配!? 間に合わないよ!!」

ざわつくスタジオ。
ADさんたちが走り回る中、ディレクターが困ったように頭を抱えていた。

「うーん、これじゃあ“料理バトル”が成立しない……」
「台本書き換えるしか……」
「でも時間が……」

そのとき——
綾人が手を挙げた。

「俺たち、即興でやってみます。バラエティ慣れてるんで。
台本なくても、まわせますよ。柚、いける?」

「えっ、あたりまえじゃん。誰だと思ってんのよ、私!」

「……俺の最高の相棒だろ?」

一瞬、目を合わせたふたり。
その空気が、スタジオ全体の温度を変えた。

◆アドリブ勝負開始!

「どうも〜〜!双子じゃないけど、芸能界の“疑似双子”、柚と綾人で〜す!」
「今日はね、料理じゃなくて、心理バトルで勝負しちゃいます!」

いきなり始まった“即興コーナー”。
テーマは「相手の好きなもの、どれだけ分かってる!?」クイズ対決!

「柚が最近ハマってるスイーツは!?」
「正解は〜……ねっとり系焼き芋!」

「正解〜〜!!」
「この子、ほんと私のこと好きなんだわ〜!」

「やかましいわ! 本番中に告白すな!」

現場、爆笑。
ディレクターも思わず「カットかけたくない」と漏らす。

モニターで見ていた私は、すごいなと思った。
このふたり、ほんとに戦友みたい。
笑いを取って、フォローし合って、自然と光を放つ。

だけど——
ふと、カメラに映らないところで、綾人が小さく呟いた。

「……俺さ、こういうの、あと何年できるかなって、時々不安になるんだ」

柚は、一瞬だけ表情を変えた。

「バカじゃないの。あんたは一生、舞台に立ってるよ」
「……それ、保証してくれんの?」

「うん。あんたが転んだら、私が手、引っ張るから」

カメラがないところでも、柚はちゃんと柚だった。

「似た者同士で、同じ場所を走ってきた二人。
どっちかが疲れても、どっちかが先に走る。
それが、家族で、仲間で、そしてきっと、特別な人。」

私はナレーションの原稿に、そう書き込んでいた。



◆帰宅後の夕方

リビングに帰ってきた柚と綾人は、くたくただけど満足そうだった。

「ねえ、詩ちゃん」
柚がソファに座りながら言った。

「この家、変だけどさ、悪くないよね」

「うん、悪くない。……ていうか、けっこう好き」

そのとき、結斗が後ろから抱きついてきた。

「詩ちゃーん、今日のばんごはん、いっしょに食べるー!」

「え、毎日一緒に食べてるじゃん!」

「でも今日は、“特にいっしょ”なの!」

なんだよ、“特に”って。

でも私は、結斗の腕をほどかずに、そのまま笑った。

「家族になるって、案外、悪くない。」



🌙おまけ:柚の寝る前メモ

【柚】:綾人との即興バトル、今日のやつ録画しておこう。
ちょっと悔しい。
あいつが、私のこと見て笑った時、
ちょっとだけドキッとした。
……あ〜〜〜〜〜、しらん!!!