開演の5分前。楽屋裏は慌ただしくも、どこかワクワクした空気に包まれていた。
家族全員が並んで着替えやマイクチェックを終え、それぞれの気持ちが少しずつ高まっていく。

「さぁ、いよいよか……」と父・一が手をパンと叩くと、依が大きく深呼吸した。

「ねえママ、緊張してきた……」
「大丈夫。ファンの人たち、ずっと私たちを見守ってくれてた人ばかりよ」
朱莉の穏やかな声に、依はうなずいて小さく笑った。



🎤オープニング:家族全員でステージ登場

司会「では皆さん、お待たせしました!“芸能人10人家族”初のファンイベント、開幕です!!」

拍手と歓声が沸き上がる。

ステージ中央、一列に並ぶ家族。
怜と理人はやや後ろに控えめに、柚と綾人はがっつり笑顔、詩と結斗は手をつなぎながら登場。依は小さく手を振り、朱莉と一は最後尾からあたたかく見守る。



🔸第1部:家族トークコーナー

司会「さっそくですが、10人という大所帯、家では誰が一番にぎやかですか?」

柚・綾人「はいっ!わたしたちでーす!!」
(客席:笑いと拍手)

柚「柚の声量がすごいらしくて!綾人くんがよく『もう少しボリューム下げて』って言うんだけど〜」

綾人「いや、聞こえないっていうよりも壁が揺れるんだよね。もはや地震(笑)」



🔹第2部:双子トーク&質問コーナー(ファンからのリアル質問)

ファン「柚さんと綾人さん、お互いの第一印象は?」

柚「うわ〜チャラそう!って思った(笑)」
綾人「それ、俺も思った!……でも話してみたら、似たようなテンションで“あ、仲良くなれそう”ってすぐ分かった」

ファン「怜さんと理人さんって、家でもピアノ弾いてるんですか?」

怜「たまに。でも……この人(理人)、夜中に弾くから困るんです」
理人「……思いついちゃうんだよ、メロディ」

(観客:静かに笑いつつ、息の合った“距離感”にざわつく)



🔸第3部:子どもたちクイズコーナー

司会「続いて、依ちゃん&結斗くんに質問!『おうちで一番すきな時間は?』」

依「うーん……おやつタイムっ!」
結斗「ボクは、詩ちゃんと絵本読むとき!」

詩「ちょっ、なんか言わせたみたいになるからやめて……」
(会場「かわいい〜〜!」)



🔹第4部:サプライズ演出

突然、スクリーンに映像が流れはじめた。

📽️【家族の記録映像】再婚初日の密着、笑顔、けんか、話し合い、涙。そして現在までの軌跡。

映像が終わると、会場の空気がしんと静まり返る。

朱莉「……たくさんの不安がありました。私も、子どもたちも。でも、こうして笑って今日を迎えられるのは、ここにいる“家族”と、そして“みなさん”のおかげです」

怜「私、人前で話すの苦手なんですけど……。今日、ここに立てて良かったと思います。……ありがとう」

理人「……ありがとう。……(一言だけマイクで)……家族です」

会場からすすり泣く声。
照明の中で、詩が小さく口を開いた。

詩「これからも……この家族で、物語を続けていきたいです」



🔸ラスト:ファンとのフォトタイム&花束贈呈

子どもたちは最前列のファンとハイタッチ、朱莉と一には感謝の花束が手渡される。
観客の誰もが、この家族の“真実”に触れたような、あたたかな時間だった。


⭐️番外編  ファン視点
「お名前と、誰のファンか教えてください」

そうインタビューされて、わたしはマイクの前で迷わず答えた。

「早坂怜さんです。…ピアノを始めるきっかけになった人です」

今日は、怜さんが家族と一緒に出演する初のファンイベント。

トーク、ライブ、そして舞台裏の映像――どれも楽しみだったけれど、正直、わたしの目当てはただ一つだった。

怜さんの音。
そして、それを聴くときの“今の彼女の表情”。



🎤 トークパート:照れながら語る「家族」

怜さんが家族について語ることって、今まであまりなかった。

だから、「音を重ねるのが好き」と言った瞬間、その言葉の裏側にある感情が、音を学ぶわたしには痛いほど伝わった。

言葉にしなくても、音にして伝えられる人。
でも今は――言葉でも、伝えようとしてくれている人。

理人さんがそれを、隣で受け止めているのも分かった。

視線。指先。ちょっとした間。

あんな静かなトークコーナーなのに、心臓の鼓動が速くなって、ペンを持つ手が少し震えていた。



🎶 怜×理人の連弾

ステージにグランドピアノが現れたとき。
空気が変わったのが、音楽をやってる人間には分かる。

怜さんと理人さんが並んで腰を下ろしたとき、観客席の空気がすっと吸い込まれたように静まり返った。

最初の一音が鳴った瞬間、わたしの背中に電流が走った。

優しさと、迷いと、決意。

ピアノってこんなに“心をさらけ出せる楽器だったっけ”と思わされた。
そして何より、怜さんが――
こんなにも“誰かと一緒に”音を鳴らせるようになっていたことに、目頭が熱くなった。

理人さんの音に、彼女は微笑んで応えていた。

その笑顔は、わたしがこれまで画面越しに見てきたどんな映像よりも、柔らかくて、人間らしくて、強かった。



💬 トークコーナー後の舞台裏VTR

未公開VTRの中、楽屋で怜さんがこっそりチューニングしてる映像が流れた。

「本番の前、あの子は絶対に手を冷やさないようにしてて」って理人さんが横から補足する。

会場から笑い声が起きたけど、わたしはその瞬間、目を伏せた。
分かる。
それくらい、ピアニストの手って神経質になるものだから。

ああ、本当に彼女は変わったんだなって思った。
誰かの存在が、怜さんを“ひとりの天才”から“ひとりの家族”に変えていったんだって。



🎤 終演後、最後のメッセージ

最後、10人全員が観客に向かって手を振ったとき。

怜さんが一瞬、ステージの袖に目を向けて、そっと息を吐いたのが見えた。

多分、ほっとしたんだと思う。

そのあと、理人さんが怜さんの背中をそっと支えて、舞台の中央に促す。

「ほら、笑って」って口パクしてたの、見えた。

…あれは、演出じゃなかった。
あれは、ひとりの人間として、彼女を“守る人”の顔だった。

そして、怜さんはきちんと笑ってくれた。

プロとしても、人としても、いま一番強く、輝いてるときなんだなって思った。



帰り道、

“推し”っていう言葉じゃ足りないくらい、わたしは彼女に救われてる。
あのピアノに、何度も背中を押してもらった。

でも、今日の怜さんは、それ以上だった。

誰かと笑い合う彼女を見て、「ああ、私もこんなふうに、誰かと音を分かち合いたい」って思った。

…よし、明日、先生に頼んで連弾の練習申し込もう。

わたしも、わたしの音を――誰かと重ねたい。