長身の男は開きっぱなしだったガラケーを耳に当て、喋り始める。

「冥沙、今の話聞いてたか?」

『ああ。当たり前だろ』

「今すぐこっち来れるか?」

『お安いご用だぜ』

長身の男はパタリとガラケーを閉じる。

「すまんの、さっきの話、全部口悪女に流しておいた」

少しすると、玄関の方が騒がしくなる。バタバタという、誰かが走って来る足音が聞こえる。

「お、来たようじゃの」

「だぁれが口悪女だ、ボケェ!」

女の人がオレの部屋の扉を蹴破って入ってくる。女の人の踏み下ろした右足がオレの顔を踏みつける。

「ふっざけんな陽眼、テメー!」

「冥沙、落ち着け。その前に、足の下、見てみろ」

女の人が、やっとオレに気がつく。

「ああ!少年、大丈夫か!?すまん!」

「……大丈夫だ」

痛かったが、耐えられたからギリセーフだ。

「……んで、陽眼、お前。あたしのこと口悪女っつったろ」

「すまん、その……聞こえてると、思わなくて」

「能力使って来たわ、バカヤロー。場所聞いてないんだから音を聞いて来るしか無いだろーが」

陽眼と呼ばれた長身の男は、明後日の方向を向いていたが、流石にそろそろ命が危ないことを感じたようで、土下座をする。

「大変申し訳ございませんでした」

冥沙は片手を腰に当て、ため息を一つ吐く。

「ったく」

冥沙が落ち着いたからか、朝倉が冥沙に話しかける。

「冥沙、久しぶり」

「お、仁か!居たんだな。陽眼に目を取られすぎて気が付かなかった。……で、こいつは誰だ?」

冥沙がオレを指差す。

「自分で聞いて」

「えっと……少年」

「オレは進だ」

「じゃあ小僧」

「オレは進だ!」

「とりあえずボウズの弟の面倒はあたしが見てやる。だから、安心して学校行ってこい!」

その言葉に、オレは反論する。

「……金は」

陽眼は顔を明るくし、右手の人差し指を立てて言う。

「そうじゃな、わしが儲けを少し送ってやる」

「ンなことしたらアンタの金が無くなるだろ」

「何言っとるんじゃ?わしは稼ぎまくってるから大丈夫じゃよ」

冥沙も陽眼に便乗する。

「コイツ、誕プレに一軒家あげるようなバカだからな」

「バカ?言ったな冥沙」

「さっきの仕返しだよバカヤロー」

冥沙はオレの腕を掴んで立たせると、オレの背中をバシバシ叩いて言う。……いてぇよ。

「ほら、弟の問題も、金の問題も解決したんだから、お前の親父に謝りに行くぞ」

オレは小さく頷いて立ち上がる。その瞬間、不可解なことに気がつき、足をピタッと止め、青ざめた顔で冥沙の顔を見る。そして、ゆっくり口を開いた。

「玄関の鍵、どうやって開けた……?」