月日は流れ、オレは晴れて中学生になった。
小学生の頃、小学校受験をし、小中高一貫校に入った。
しかし、勉強をあまりしてこなかったもので、中学では生憎一番下のクラスになってしまったが。
ただ、晴れて中学生、とは言ったものの、早速暴力行為で謹慎を受けてしまった。
簡単な話だ。オレには兄弟が多いから、学校とか行ってても学費を払うのが大変になるだけだ。だったら謹慎になって学校には行かずに、心配をかけないようにするために休日だけ自営業のお袋の仕事を手伝えばいい。
それだけの話だ。
オレは、いつも通り学校に行くフリをする。

「んじゃ、行ってきます」

弟らが返事を返してくれる。

「行ってらっしゃい」

「がっこー、たのしんできてねっ」

「んー」

オレはそうとだけ答えて家を出る。そのまま学校には行かずに近くの漁港まで向かう。
あそこは漁港のくせにちゃんとした整備がされていない。
あの自然丸出しなところが好きだ。

学校の奴らは、今授業を受けているんだろうか。学校の奴らは……
それで思い出したのは、かすみのことだ。かすみは今どうしているだろうか。日本には、戻って来ているだろうか。そういう期待は、してもいいだろうか。

「あーあ……暇だなぁ」

ふと見上げた空は、曇っていて、太陽なんて見えるものじゃなかった。
数時間後、漁港の端の方にある大きな岩に登って海を見つめていると、下から声がかかった。

「すみません、仁藤進くんであってますか?」

突然の不意打ちの言葉に、オレはびくっとして、声の主を睨む。

「誰だお前」

「えっと、朝倉仁です。あの、進くんのクラスの担任教師なんですけど……」

「証拠」

「証拠ですか?」

「そうだよ。信じられるわけがねぇだろ、それだけ言われても。証拠出せよ」

そう言うと、朝倉仁と名乗った男は自分の服をぱしぱし叩き始めた。その男の後ろに、長身の男も佇んでいる。長身の男は、朝倉に何かを言っている。少しして、朝倉がズボンのポケットから何かを取り出した。

「これ、名刺です」

オレは近づく気がなかったため、どうしたらいいか悩んでいたら、朝倉がオレに向かって名刺を投げた。上手い具合に飛んできたため、キャッチして、名刺を読む。

学校法人
日の出学園 小中高一貫校 中等部
1-C担任 数学教師
朝倉仁(あさくらじん)

その下に住所やら電話番号やらが書かれている。……まあ信用してやろう。オレは岩の上から飛び降りる。

「あれ、これだけで信用してくれるんですか?」

「名刺も見せてもらったし、何かする気なら岩に登ると思ったからな。それとも、信用されたくなかったか?」

「いえ……」

「だったら問題ねェだろ。そうだよ、オレは仁藤進。……で、何の用?」

「家まで連れてってください。茜さんが心配してましたよ」

唐突だな、オイ。ていうか、お袋とは会ってきたのかよ。

「お袋が……。……っどうせ今の時間は買い出し行ってて家にはいねーよ」

「いいじゃないですか。ぼく、進くんを探すの苦労したんですから」

……こいつ本当に教師か?ノリ軽すぎんだろ。

「……わかったよ。着いてこい」

オレが歩き出すと、朝倉もてちてちと足音を立てて追いかけてくる。……てちてち。スタスタとかじゃねェんだ。
少し歩いて家に帰ると、鍵を開けて中に入る。案の定お袋や弟らはいなかった。オレはいつも通り、玄関に置いてある棚の上の写真の中にいる女子に声をかける。

「……ただいま」

朝倉も真似して写真に声をかける。

「お邪魔します」

長身の男も何か、話しかけていた。後ろを振り向くと、オレは上がったのに2人はまだ玄関で棒立ちになっている。男2人を手でこ招くと、2人はぺこっと会釈をして中に入ってきた。部屋に3人全員入ると、オレは部屋の扉を閉め、2人に向かい合うようにドサッと座り込む。

「……ンで、なんでオレを探してたんだ?朝倉さんよォ」