占い師は、あの人の幸せを願う彼に、恋をした

私は、カードの束に両手を添える。
今度は、先ほどよりも少しだけ深く、呼吸を整えた。

さっきとは違う種類の空気が、部屋に満ちていくのを感じる。
彼が、ほんの少しだけ気持ちを未来へ向けたからだ。
それだけで、空気の流れはわずかに変わる。

私はカードを静かに切っていく。
手のひらに、さっきとはまた違う温度が残る。

——今度は、冷たい風が、胸の奥を抜けていった。

私はゆっくりと、三枚のカードを並べる。

「運命の輪」「星」「女教皇」

……そして、もう一枚。

「太陽」

その並びを見た瞬間、頭の奥に自分の名前が“よぎった”。
唐突に。しかも、はっきりと。

私。

まるでカードたちが、そう言っているかのように、
そのイメージが、静かに、けれど否応なく、胸の中に流れ込んでくる。

——私が、“彼の未来”に現れる?

まさか。そんなはず、ない。

私は目を閉じ、気を落ち着けようとする。
けれど、その間にも、頭の奥では自分の名前が何度も反響していた。

「……どうでしたか?」

彼の声が、柔らかく私の意識を引き戻す。

私は目を開けて、カードを見つめたまま、答えを探す。
並んだ四枚は、どれも強く、まっすぐだった。
曖昧さのない、確信に満ちたような構成。

「……ええ。とても……いいカードが出ました」

それだけで言葉を止めた私に、彼が少しだけ笑う。

「……それって、“希望がある”ってことですか?」

私は頷く。けれど、口には出さなかった。
——“私のこと”など、言えるわけがなかった。

私の声は、思っていたよりも澄んでいた。

「……あなたの気持ちは、これから少しずつ変わっていくと思います」

私は一枚一枚に目を落としながら、ゆっくり言葉を継いだ。

「今はまだ、花さんへの想いが大きいかもしれません。
でも、ふとしたきっかけで、あなたの目線が“別の方向”へ向く瞬間が訪れます」

視線を彼に戻す。

「そのとき、あなたは迷うかもしれません。
でも、その相手は……あなたの誠実さを見て、ちゃんと受け止めてくれる人です。
きっと、あなた自身が“救われた”と感じられるような、そんな出会いになります」