占い師は、あの人の幸せを願う彼に、恋をした

依頼者のもとへ歩きながら、私は自分の鼓動を何度も確かめていた。
速い。落ち着かない。
でも、嫌な感じじゃない。ただ、懐かしいだけ。

「……ごめんなさい、待たせて」

そう声をかけると、彼女はにこりと笑って首を振った。

「いえいえ。……さっき、ちょっと話してた人、知り合い?」

「……昔の恋人」

ぽつりと、そう答える。
彼女はほんの一瞬だけ驚いた顔をしたけれど、すぐに「そうなんですね」とだけ言った。
その“深く踏み込まない距離感”が、やけに優しかった。

少しの沈黙のあと、彼女がそっと口を開いた。

「ねえ、タロット……今、引いてもいいですか?」

私はうなずき、サコッシュの中からカードを取り出す。
彼女の手が一枚を引いた。

『恋人』『節制』『力』

——まっすぐで、穏やかで、優しいカードたち。

カードを見つめながら、私は静かに告げた。

「……大丈夫。この恋は、きっとあなたに優しい」

彼女は、小さく頷いた。
その頷きが、さっきよりもほんの少しだけ強く見えた。