占い師は、あの人の幸せを願う彼に、恋をした

「……あの、ひとつだけ言っていいですか?」

「はい?」

「……もっと、自分にも優しくしてくださいね」

その声は、驚くほどまっすぐで、やわらかかった。

私は一瞬、呼吸が止まりそうになる。

「え……?」

「たぶんですけど、結月さんって、人のために頑張りすぎるところ、あると思うんです。だから……ちゃんと、自分のことも、休ませてあげてくださいね」

静かなその言葉が、ゆっくりと胸の奥に染み込んでいく。

「じゃあ……また、どこかで」

そう言って、夏谷さんは微笑んだ。
そして、やさしい空気のまま、カフェの出口に向かって歩いていった。

その背中を見送りながら、私は――

気づいてしまった。

胸の奥で、小さな“芽”が光っていることに。

暖かくて、やわらかくて、
ほんのささやかだけれど、確かにそこにある感情。

……駄目だ。

私はそっと胸元に手を置いた。

この芽は、まだ小さい。
だから、まだ今なら――

私は目を閉じて、静かに息を吐く。

……ごめんね。

芽が、音もなく、ふっと消えた。

それでもその場所には、かすかに、ぬくもりだけが残っていた。

ああ、ほんとは。
ほんとは、こんな風に自分の気持ちを扱っちゃいけないのに。

でも私は、
自分の“好き”を摘んでしまった。

まるで、それが当然のことみたいに。