占い師は、あの人の幸せを願う彼に、恋をした

「誰かに使ったことはない。今までは、自分にだけ。……いつの間にか好きになりそうになったときとか、傷つくのが怖かったときとか。そういう時だけ」

言葉にしながら、自分でも気づく。
どこか、悲しい使い方しかしてこなかったことに。

「……でも、梨沙が、どうしてもって言うなら。できなくはない」
「ただ、これは“終わり”じゃない。芽が生えなくなるわけじゃないから……」
「またいつか、心があたたかくなったときに、ちゃんと芽は出てくる。恋も、愛情も。……ただ、今の“それ”だけを、一度、静かにするだけ」

梨沙は、しばらく沈黙していた。
湯気が、少しずつ薄くなる。

その中で、ぽつりとこぼれた。

「……やってもらえるかな」
「怖いけど……でも、それより、このまま心が動けないままの方が、ずっと怖い」
「自分でも、もう、何に泣いてるのか分からないくらいで……」


私はそっと、梨沙の手に自分の手を重ねる。
そのぬくもりの奥に、言葉にできない“何か”が確かに息づいていた。

——これは、もう「芽」なんかじゃない。

長い時間をかけて、心の中に育ってきたもの。
何度も思い出して、傷ついて、それでも消えずに残っていた——

「……梨沙の“好き”はね、ちゃんと、咲いてたよ」

私は、静かに言葉を紡いだ。

「立派な花になってた。きっと、自分でも気づかないくらい、大切に育ててたんだと思う」

梨沙は、わずかに目を伏せた。肩が小さく揺れた。

「……それを、私がやれるとしたら……ほんの少しだけ、今だけ、静かにすることができる。
 完全に忘れさせるわけじゃない。花を、根から引き抜いて捨てるんじゃない」

私はそっと、胸元に手を置く。

「必要なときだけ。たとえば、式場で微笑めるように。
 ちゃんと“おめでとう”って言えるように——そのための、準備みたいなもの」

梨沙は目を閉じて、深くひとつ息を吐いた。