占い師は、あの人の幸せを願う彼に、恋をした

彼女は、驚いたようにこちらを見た。

目を大きく見開いて、言葉を探すように、何かを問いかけそうになった。

私は、微笑まなかった。
ただ、真っ直ぐに視線だけを向けた。

「全部を消すわけじゃない。忘れろってことじゃなくて……もう、その痛みに、ひっぱられなくなるくらいに」

梨沙は、しばらく黙っていた。
紙コップの中で、スープが湯気を立てている。
その湯気を見つめるように、まばたきもせず、息だけが浅くなる。

「……そんなこと、本当に、できるの?」

その声は、震えていた。
でも、それは疑いじゃなかった。
信じてしまいたいという、祈るような声だった。

私は、少しだけ視線を落とした。
そして、小さな声で言った。

「……誰にも言ったことないんだけどね」

梨沙は静かにこちらを見つめている。
私はその視線から逃げなかった。

「人の“心”って、たまに形が見えるときがあるの。……それは、芽みたいなものなの」
「誰かを想ってるとき、ふわって、胸の奥に小さく、やわらかく光ってる。ほんの少しだけど、ちゃんと命を持ってるみたいに、そこにある」

梨沙は、まばたきもせずに聞いていた。

「それが、恋の芽。……もっと育っていけば、やがて花になる。うまく咲くかどうかは分からないけど、少なくとも、その芽があるってことは、“誰かを愛している証拠”なの」

「……芽」

私はうなずく。

「私にはね、その芽を……摘むことができるの」

私は、少しだけ微笑む。