「いらっしゃいませ」
花さんの、少しだけトーンの上がった声。
私は何気なく顔を上げて——
一瞬、呼吸が止まりそうになった。
夏谷春人さんだった。
入口のガラス越しに差し込む光が、彼の輪郭をふわりと縁取っていた。
変わらず黒のジャケット。すっきりとした白いシャツ。
整った身なりに、どこか疲れたような、でも澄んだ目が印象的だった。
彼は、軽く頭を下げてから店内へ入ってくる。
そして、まるで迷いなく、カウンター席の一番端に腰を下ろした。
花さんがそちらへ歩み寄っていく。
彼は、席に深くは座らず、背筋を伸ばしたまま、メニューを受け取る。
ほんの短いやりとりだった。
けれど、そのわずかな会話の中に——私は気づいてしまった。
彼の視線が、ただ、優しかった。
笑うでもなく、媚びるでもなく、
過度な期待も、諦めも、どこにも滲んでいない。
ただ、まっすぐで、穏やかで、温かい。
人を、人として、大切に見るような、そんな目だった。
……あんな視線を向けられたら、きっと誰でも少し、心が揺れる。
私は手の中のフォークを見つめたまま、ふっと息を吐く。
“いいな”
思わず、そんな言葉が、胸の内にこぼれた。
あんなふうに誰かを見つめて、
あんなふうに見つめ返される——
それは、想いの深さとか、報われるかどうかなんて関係ない。
ただ、それだけで、羨ましいと思ってしまった。
彼女が、じゃない。
あの目線を受け取ることのできる誰かが、ただ、羨ましいと感じた。
花さんの、少しだけトーンの上がった声。
私は何気なく顔を上げて——
一瞬、呼吸が止まりそうになった。
夏谷春人さんだった。
入口のガラス越しに差し込む光が、彼の輪郭をふわりと縁取っていた。
変わらず黒のジャケット。すっきりとした白いシャツ。
整った身なりに、どこか疲れたような、でも澄んだ目が印象的だった。
彼は、軽く頭を下げてから店内へ入ってくる。
そして、まるで迷いなく、カウンター席の一番端に腰を下ろした。
花さんがそちらへ歩み寄っていく。
彼は、席に深くは座らず、背筋を伸ばしたまま、メニューを受け取る。
ほんの短いやりとりだった。
けれど、そのわずかな会話の中に——私は気づいてしまった。
彼の視線が、ただ、優しかった。
笑うでもなく、媚びるでもなく、
過度な期待も、諦めも、どこにも滲んでいない。
ただ、まっすぐで、穏やかで、温かい。
人を、人として、大切に見るような、そんな目だった。
……あんな視線を向けられたら、きっと誰でも少し、心が揺れる。
私は手の中のフォークを見つめたまま、ふっと息を吐く。
“いいな”
思わず、そんな言葉が、胸の内にこぼれた。
あんなふうに誰かを見つめて、
あんなふうに見つめ返される——
それは、想いの深さとか、報われるかどうかなんて関係ない。
ただ、それだけで、羨ましいと思ってしまった。
彼女が、じゃない。
あの目線を受け取ることのできる誰かが、ただ、羨ましいと感じた。
