音の放浪者

「じゃあ、まず構え方からだな」



そう言って蓮城くんは膝の上に乗せていたベースを構える。



「まずこう、ベースの窪みの部分を足に乗せて、ベース自体を体に近づける。で、腕をベースに添えてこうだ」



蓮城くんは私にそう説明しながらベースを構えた。



「こ、こう?」



私は蓮城くんの姿を見ながら私はベースを構える。



「うーん、力入りすぎだな。脱力だ」



そう言われ、私はベースを持つ腕を脱力させた。



「うーん……さっきよりは良くなったんだけど何か違うんだよな」



そう言って蓮城くんは椅子から立ち上がり、私の方へと歩み寄る。

そして私の前で立ち止まって膝をつき、私のベースのネックを持つ。



「こう、もっとネックを前に出した方が良いと思うんだよな……」



そう言いながら弦に手を添えている私の手や、本体の位置、角度などをいじっていく。



「よし、これでだいぶ良くなったか」



そう言って蓮城くんは満足そうな表情を浮かべる。


それと同時に私は2つの視線が向けられていることに気づいた。


その視線がある方へと顔を向けるとドラムに座っている鳴滝くんとそのすぐ側に立っている2人が目に入った。

そして2人で体を寄せ、何かこそこそと話している。


蓮城くんもその視線に気づいたようで、満足そうな表情から怪訝そうな表情へと変わる。



「さっきから俺たちの方ばっか見てるけどなんか用?」



蓮城くんがそう問いかけると鳴滝くんは口をニヤリとつり上げさせて返事をした。



「いやあ、別に?」



彩世もどこか鳴滝くんと似たような表情を浮かべながらうんうんと頷いた。


あの2人は何がしたいのか……


私と蓮城くんは2人からの謎の視線を向けられたまま練習を続けた。