音の放浪者

「見てー!前楽器屋さんで見たベース買ってもらったの!」



私は部室に入るなり3人にベースを見せた。



「えー!めっちゃかっこいい!昼間ずっとソワソワしてたのってこれがあったから?」


「ずっと言いたいなーって思ってたんだけど、ビックリさせたかったから黙ってたの」


「買うの早いね。しかもそれ、確か結構高いやつじゃなかったっけ?しばらくは学校のベース使ってればよかったのに」



鳴滝くんがそう声をかけてくれる。



「お父さんは楽器関連だったら基本的にすぐ買ってくれるから。」


私はそこで言葉を切らず続けざまに口を開く。



「高い楽器を買うメリットって2つあるんだけど何かわかる?」


「えー、なんだろ」


「モチベが上がる、とか?」


「そう!連城くん正解!」


連城くんが見事に1つ目の答えを言い当てる。


「2つ目はよく分かんないんだけど。もう答え教えて風音ー。」


「2つ目は………」


「高い楽器を買って逃げ道を全部閉ざすこと」


「ひえ……」


「わお……」


「ちなみに前吹いてたオーボエもめっちゃ高いやつを買って逃げ道を無くした」



私はわざとらしくニコニコとした笑顔を作りながらそう言った。



「風音って結構ストイックだね……」



彩世はそう言って苦笑いを零した。