音の放浪者

蓮城くんの歌声が私の耳に流れ込んでくる。

耳を甘く溶かすような低音、抑揚のついた歌い方、節々に細かくかかるビブラート。

圧倒的な歌唱力に、私は思わず聴き入ってしまった。



歌が終わり、採点に入った。

音程、リズム、抑揚、表現力が加点されていく。
そして合計点数は……



「え、98点!?」



彩世の信じられない、と言わんばかりの声が響き渡る。



「やっぱ流石だねえ四輝」



鳴滝くんはいつもと同じような声色でそう言った。



「鳴滝くん、連城くんが歌上手って知ってたの?」



私は何故鳴滝くんが驚かないのか気になってしまい、思わず鳴滝くんに問いかけた。



「知ってたも何も、僕たち小学校のときから仲良くしてたからね」


「そうだったんだ……」



まさかの新事実。鳴滝くんと蓮城くんは小学校からの知り合いだった。

でも確かに、よくよく考えてみたら私達と初めて会った時から蓮城くんと鳴滝くんはお互い気を許しあっていたような雰囲気はあったような……?



「はい風音、ボーカルを決める大事な瞬間の大トリだよ!頑張って!」



彩世は私にマイクを差し出しながらそう言った。

あんな凄い歌披露された後に頑張れる気なんてしないよ……



私の頑張る気がどんなに低かろうが、曲は無慈悲にも流れ始める。


よし、一旦気持ちを切り替えよう。

私はあー、と声を出してから、足でリズムを刻み、テンポだけは崩れないようにする。

そして私は息を大きく吸い込み、歌を歌い始めた。