僅かな距離といえば距離なのだが、勢いよく抱きしめられたからか、心臓が激しく脈打つ。それとともに聞こえてくる激しい鼓動。カイルの胸に顔を埋めているせいもあって、ダイレクトに伝わって来た。

「ありがとう、カイル」

 恥ずかしさのあまり、顔を上げられずにいると、今度は頭上からゆっくりと熱い息がかかった。思わず体が跳ねるが、カイルは気がつかないのか、さらに腕に力を込める。

 いくらここが中庭で、あまり人が来ない場所だからって、これはさすがに……!

「ほんの少し出ただけでこれとは……心臓がいくつあっても足りません」
「ご、ごめんなさい。今後はもっと気をつけるわ。だから、ね」

 そろそろ離してもらえないかしら、と言おうとした瞬間、突然、体が浮いた。

「いえ、俺の言葉を真に受けないでください。そんなことをしたら、一歩もご自分の足で歩けなくなりますよ」
「えっ、それは……どういう意味?」
「移動がすべて、これになってしまいますから」

 これって、横抱きのこと?