あれは営業部の新入社員と本田くんだ。
可愛らしいショートボブの子で、何度か打ち合わせの時に見かけたことがある。
目隠しの観葉植物があるため、向こうから私は見えていないはず。
こんなところで二人きり、何をしているんだろう。
まさか、という考えが頭をよぎる。
息を潜めて見ていると、女性が口を開いた。
「私、本田さんのことが好きなんです。付き合ってくれませんか?」
彼女の言葉を聞いた瞬間、心臓がドクンと嫌な音を立てる。
観葉植物の間から、本田くんが驚いたような顔をしているのが見えた。
「気持ちは嬉しいけど、君とは付き合えない」
「どうしてですか?」
「好きな人がいるから」
彼の言葉が胸に突き刺さった。
本田くん、好きな人がいたんだ……。
そのことにショックを受けている私がいた。
『好きな人がいるから』と言った彼の声色はすごく優しかった。
きっとその人のことを想って言ったんだろう。
私も本田くんのことが好きだった。
入社してからずっと、同期として切磋琢磨してきた。
仕事でミスをして落ち込んでいる時や困っている時、いつも本田くんはさりげなく気遣ってくれる。
仕事中の真剣な眼差し、ふとした時に見せる笑顔や優しさに気が付くと惹かれていた。
でも、私は自分から告白すらできない臆病者だ。
それには過去の出来事が関係している。



