同期と私の、あと一歩の恋


乾杯の挨拶からしばらく経ち、場の雰囲気も盛り上がって徐々に席を移動している人も増える。

私たちの会話は、最近のお気に入りのアーティストの話になっていた。
すると、近くにいた周りの人も会話に加わってくる。
その輪はテーブル全体に広がり、自分の推しを熱く語る人の話がすごく面白くて、私は夢中になって聞いていた。

ふと、話しかけようと隣に目をやると、本田くんの姿はそこにはなかった。
離れたテーブル席で、営業の人たちに囲まれて話している姿が目に入る。
そこには営業部長や女性の営業担当の人たちがいた。

あ、まずい。
今日は本田くん潰されるかも。
彼がいるテーブルには、営業部でもナンバーワンの酒豪と言っても過言ではない、森沢美鈴(もりさわみすず)さんがジョッキ片手に笑っている。
彼女につられて飲んでいたら、間違いなく潰される。
どうにかうまいこと切り抜けられたらいいけど、と焼き鳥を一口かじりつつ、同期の心配をしていた。

「広瀬さん、飲んでる?」

そう声をかけてきたのは、営業部の山田さん。
彼はいつも明るいムードメーカーで、飲み会の時は、ビールのジョッキ片手にテンション高く次から次へとテーブルを回っている。
この光景を見たのは何度目か分からないけど、慣れたものだ。
 
「飲んでますよ、これ三杯目です」

ジョッキを持ち上げてビールを飲んで見せると、山田さんは満足そうに笑って違うテーブルへと移っていった。