「あんたな、しょっぱなから暴走しすぎだ!!」
「ジローちゃん、物事には順序ってもんがあってやなぁ……特に女の子はそこらへん、気ィつかってあげなあかんで」
キングのオーラにもハイジとケイジくんは怯むことなく、それどころか説教くらわしていた。
今はキングが、自由を奪われているからだろう。
けれどジローさんは「女じゃなくてタマだろうが」と、平気で言い放っていた。
「俺の犬をしつけて何が悪いんだよ」とまで、吐き捨てていた。悪びれる様子はなかった。
本気でめまいがした。
この人はいたって真面目だったのだ。
彼の目を通せば、私は「人間の女」ではなく「イヌ科の犬」なのだ。
目の前で何が起きたのか把握できず茫然としていると、正面にハイジがヤンキー座りでしゃがみ込んできた。
「悪かったな、もも……っつーかよ、なんてもん着けられてんだお前は」
バツが悪そうな顔をしつつも、なぜかほんのり頬を赤くするハイジ。
ヤツは私の首に装着されているハートチャームの首輪をつまんで、しげしげと観察していた。恥ずかしそうに。
ハイジにそんな態度とられると、急に私も恥ずかしくなってきた。
そうだ……私、なに首輪着けちゃってんだろ。
おかしいじゃん……冷静になったら、おかしいじゃんよこの格好!!
またしてもジローマジックにやられてた……!!
けれど後悔よりも先に、今さらになって恐怖がじわじわと込み上げてきた。
たとえ変人奇人なジローさんであっても、男の人だから。あんな風に迫られるのは初めてで、純粋に怖かった。
逆らえない力が、怖いと思った。

