「もも?けっこう可愛い名前じゃねーか」
そうだよ、名前だけは昔からよく「可愛い~」って言われてた。名前だけね。
他に褒められるとこないからさ。
「あなたは?」
「ん?お前……この俺を知らねえのか!!」
「えっ、し、知らないけど……」
いや、うん、知らないでしょうよ普通。
会ったことないんだし。
でもやけに自信満々な言い方だなあ。
「あーどうりで反応が薄いと思ったんだよな~。くそ、俺もまだジローちゃんほど有名にはなってねえのか~」
え、何?この人有名なの!?
まぁ髪の毛緑だし目立つけど、校内で見たことない。
っていうか16歳って、同じ学年なんだろうか。
「灰次だ、風切 灰次」
「ハイジ……」
なんて……メルヘンな名前なの。
「おいお前、今アルプスを想像しただろう」
「ふへっ!?あ、いえ……」
「嘘つけ。言っとくけどな、俺はでけえ犬もヤギも飼ってねえし、おじーさんとも暮らしてねえからな」
やだ、もうそのイメージしか浮かんでこない……!!
わ、笑っちゃダメよ!でも、こんな大きい男の子が、ハイジ……!
「ぷっ」
「てめえぶっ殺す!!」
「あわわわわ!ごご、ごめんなさいっ!!!!」
それからなんとかハイジをなだめて、どうにか機嫌を直してもらった。
……疲れる。
失恋したのに。フラれたのに。
なんで私がこんなに気を遣わないといけないんだろう。
もう帰ろ。
「じゃ、私そろそろ帰るから……」
よくわからないけど、ハイジと関わるとロクなことなさそうだから、逃げようと思った。
「ちょっと待て」
止められた。
「……何?」
屋上のドアノブに手をかけたまま振り返ると、ハイジは真っ直ぐに──真剣な目で私を見ていた。
何なんだろう、私に何の用が!?

