気まぐれヒーロー



『ブスに告られても嬉しくねーし』  


田川の言葉が思い出される。

そうだよ、ブスだよ。ダメなの?
顔が可愛くないと、誰も好きになっちゃいけないの?  

なんで私……初めて会った人にまで、バカにされないといけないの?


「……おねーさん?おーい、腹でも痛くなったか?うんこしてえのか?」  


……うんことか言わないでよ、バカ。  

泣きそうだった。
いくら田川がサイテーな男だったとしても、三年間も好きだったんだ。優しく笑いかけられた時、ドキッとしたんだ。

悲しくないわけ、ないじゃん。
あの時の想いは、本物だったんだから。  


緑の前で泣きたくなんかなかったけど、堪えきれずに私は俯いてポロポロ涙を流していた。  

頬を伝って落ちた雫が、灰色のコンクリートに染みを作っていく。


「ふ、っく……」

「っ、おい!泣いてんのか……?」


一度泣き出したら、止まらない。
決壊した涙腺から、ダムのごとく涙が溢れてきた。


「ま、待て!悪かった、泣くな!俺は女は泣かせねえ主義だ!!」


ぐちゃぐちゃに泣く私を見ながら、緑はあたふたしていた。

あんたの主義なんかどうだっていいよ……。
それに、別にあんたのせいじゃない。

そう言いたくても喉の奥から出てくるのは嗚咽ばかりで、言葉にならない。


「ほら、これで拭けよ」


緑がポケットを探って、私に何かを差し出してきた。

ティッシュかなと思った。
意外と律儀にそんなもの持ってるんだ……って思ってたのに。




キティちゃんのハンカチだった。